平成27年度は,沖縄県におけるサトウキビ圃場を対象地として,雨水の浸入を促進する畝間の溝切りと溝への有機物の挿入に着目し,それらが表流水の流出量及び土砂流出量へ与える影響を明らかにする圃場試験を実施した。その結果,サトウキビの残渣による地表面被覆がある状態の休閑期において,溝切りによって表面流出は抑制できたが,土壌のかく乱を伴ったために土砂流出は増大した。サトウキビの植え付け時期を含む栽培期において,溝切りと有機物の挿入は表面流出の抑制に加え,不耕起栽培ほどではないが土砂流出も抑制できた。 また,水田における物質動態について,水田畦畔からの濁質の発生や水田における脱窒のメカニズムに関する野外試験や室内実験を実施した。その結果,水田における濁質の発生・流出において,畦畔における侵食が顕著であった。また,脱窒は田面内の流量や流速に比例しての増大する傾向にあった。 流域における物質動態解析について,沖縄県やパラオ共和国における流域を対象としてWEPPモデルやSWATモデルによる数値シミュレーションを実施した。WEPPモデルを石垣島全域に適用した結果,土砂流出抑制対策の優先流域を特定でき,土壌侵食が顕著な地域から優先的に対策することが効果的であることが分かった。また,石垣島名蔵川流域においてSWATを適用した結果,水,土砂,栄養塩の動態を再現可能であり,観測値に対する適合性も概ね良好であることがわかった。また,減肥対策の数値シミュレーションを実施した結果,河川水における栄養塩の削減効果は小さいことがわかった。 平成25年度から平成27年度の成果より,過剰な土壌流亡によってサンゴ等の生態系劣化が深刻な問題となっている亜熱帯島嶼地域を対象として,土壌・栄養塩・有機炭素流亡に着目した物質動態を現地観測,モデル化,そして数値シミュレーションによって定量的に評価することができた。
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