研究課題/領域番号 |
25450361
|
研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
角道 弘文 香川大学, 工学部, 教授 (30253256)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 絶滅危惧種 / マツカサガイ / 農業用水路 / 移送 / 潜砂 |
研究実績の概要 |
マツカサガイの安定的な生息の阻害要因の一つとして流れによる移送が挙げられるが,マツカサガイの潜砂行動はその抗力となりうる。本年度では,流速の変動に伴うマツカサガイの潜砂行動特性の把握を行うとともに,非潜砂時の移送に対する限界流速を明らかにした。 全長2000mm,水路幅300mmの水路模型をアクリル板にて作製した。水路床には,マツカサガイが実際に生息している水路より採取された底質を厚さ70mmで敷いた。 潜砂実験で発生させる流速を 9cm/sと20cm/sとした。マツカサガイは合計34個体使用し,斧足出しから潜砂完了までの所要時間を計測した。 移送実験では,9,20, 34.3,38.7,39.0,41.3,47.0,51.3cm/sの流速とした。殻長3.0~4.8cmのものを18個体選定し,水路には殻頂が上流に向くように1個体ずつ配置した。 9cm/sの流速において,斧足出しから潜砂完了までの一連の潜砂に要する時間は概ね20~75分であった。20cm/sの流速においては,概ね20~49分であった。流速の変化に伴う潜砂に要する時間には差が見られなかった(U検定,p=0.5770)。このことから,流速が潜砂時間に与える影響はほとんどないと考えられた。また,昨年度の研究により,流れ場の状態による差はほとんどないと考えられた。 流速34.3cm/sでは全個体が移送されず,51.3cm/sでは全個体が移送された。大半の個体が移送された流速は概ね50cm/sであった。また,いくつかの個体が移送され始めた限界流速は概ね31cm/sであると考えられた。本実験では,移送の機構は転倒と滑動に分けられたが,滑動によるものが多くみられた。また,移送率が流速の増加に伴い,必ずしも増加するわけではないことが分かった。これは,個体を配置した底質表層部の細かな粗度などが主な原因であると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,マツカサガイの移送について明らかにすることが主な課題であった。水路模型を用いた検証を通じて,限界流速が推定されたと同時に,移送の発生機構についても概ね明らかにされた。これらより,研究はおおむね順調に進捗していると判断される。 とくに,水路模型の水路幅は概ね実スケールで製作することができ,水路模型に適用した底質は実際の水路より採取したものを用い,なるべく再現性の高い水路床環境とすることができた点は評価できる。 なお,当初計画では,個体識別をしつつ実際の開水路においても移送実験を行うこととしていた。しかし,現地での移送実験は任意の流速の下で部分的に実施したものの,主には室内実験で水路模型を用いた移送実験を繰り返し行った。これは,期待していた速い流速が実際の水路で発生しなかったためである。室内実験では40cm/s程度以上の流れ場で実験を実施でき,現場での移送実験を補完することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
過去2ヶ年の実績を踏まえ,流量変動による個体移送の影響が小さいと考えられる水路区間を安定した生息場と見なし,当該区間の環境調査を実施することで,マツカサガイの生息に適した環境条件を定量的に明らかにする。詳細は以下のとおりである。 本研究の最終目的であるマツカサガイの生息環境条件の定量化を行うために,安定的な生息場,不安定な生息場それぞれにおいて,既往の研究で指摘されている環境要因(底質組成,底質硬度(土壌硬度計を本経費にて購入),溶存酸素,栄養塩類,クロロフィルa 濃度,流速など)を計測・分析し,環境要因の比較検討を行いつつ,安定的な生息場に具備されている環境条件の定量化を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験装置の製作に安価な部材を適用したため。
|
次年度使用額の使用計画 |
現地調査や室内実験に必要な消耗品,備品の購入に充てる。
|