本研究は、マツカサガイの生息状況を把握するとともに、生息に適した水路床の物性について検討することを目的とした。調査対象水路は,過年度の調査によって同種の個体群が確認された農業用水路を対象とした。この水路は水田に直接引水される末端水路であり水路幅は約67cm,非灌漑期の水深は約10cm,平均流速は0.25cm/sと小規模水路である。調査は水路総延長60mの範囲より抽出した30区画(区画サイズ30×30cm)で行い、マツカサガイ等貝類の出現個体数、水路床の底質硬度、底質粒度、礫等の被覆割合を把握した。 調査結果をもとに、目的変数をマツカサガイ出現個体数、説明変数を底質環境とした重回帰分析を行った。説明変数は、シジミ類の出現個体数、カワニナの出現個体数、底質硬度、強熱減量、組成割合[礫]、組成割合[粗砂]、組成割合[シルト]、礫の被覆割合の8項目とした。重回帰分析の結果、シジミ類の出現個体数が正の影響を、組成割合[粗砂]および礫の被覆割合が負の影響を与えることが判明した。これらのことから、シジミ類の選好する底質環境とマツカサガイの選好する底質環境は類似していると考えられた。また、調査した底質の粒径分布の範囲では、底質中に含まれる粗砂の割合と礫の被覆割合が低いほどマツカサガイ生息数が増加し、同種の生息に適していることが分かった。 以上、生態系に配慮した農業用水路において、水路床を整備する際の留意点として、底質中の粗砂の割合が25~40%程度、水路床表面の礫の被覆割合が10%未満とすることが重要であると結論づけられた。
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