研究実績の概要 |
本研究では,農業生産活動による地下水の硝酸汚染問題に対応するため,沖縄本島南部地域の地下ダム灌漑流域等を対象として,現地観測調査と室内カラム試験等を通じて窒素成分を含めた地下水の物質輸送現象を定量的に把握するとともに,安定同位体比分析やPCR-DGGE 等の分子生物学的手法を用いて硝酸化成・脱窒過程に関与する微生物の同定と硝化・脱窒の生物代謝速度に係る物理環境条件を検証した.最終年度である平成27年度は,得られた知見を基に, 地下水水質形成機構を明らかにするとともに,地下ダム水源水質保全管理に活用できる循環灌漑技術手法を検討した.併せて,地下水調査を通じて,琉球石灰岩帯水層断層後背地や地下ダム堤体直上流等における還元的環境条件の発生や降雨時の酸化的環境への移行など地下水中の硝酸性窒素に係る変動特性を把握するとともに,リアルタイムPCRで定量された亜硝酸還元酵素遺伝子量は脱窒作用の有無の検証に活用できることが示唆された. このような調査・解析を通じて,地下水中の微生物代謝に伴う硝化・脱窒メカニズムとともに,地下水の水質形成機構への関与を裏付けることができた.さらに,現地調査とハウス施設内試験圃場におけるポット試験等から,硝酸化成と脱土壌・地質環境条件の関係等を把握し,硝化・脱窒作用の効率化に向けた土壌・地質環境条件整備に係る手法を検討した. 研究成果の一部は,農業農村工学会九州沖縄支部の26年度及び27年度大会シンポジウムにおいて発表するとともに,農業機械化協会の機関誌62号『沖縄の農業農村整備・農政改革への対応と研究動向-21世紀の活力ある農業農村の創造に向けて-』に掲載された。本研究の成果は,水質管理を含めた適切な地下水利用への活用を通じて,畑地農業地域等の農業用水利用技術や環境保全型農業生産活動技術の進展に寄与することが期待される.
|