研究課題/領域番号 |
25450367
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
森 淳 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究所・資源循環工学研究領域, 上席研究員 (10414418)
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研究分担者 |
小出水 規行 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究所・資源循環工学研究領域, 主任研究員 (60301222)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生態系の多様性 / 農業水路 / 生物多様性評価 |
研究概要 |
岩手県奥州市のいさわ南部地区において溜池と水路からなる多様な生息環境で生育した魚類の安定同位体比を解析した。中沢集落の水路で採捕した魚類のδ13C-δ15Nマップを見ると,アブラハヤ,ウグイ,オイカワは近似した値を示したのに対し,モツゴ,タイリクバラタナゴ,フナ(接続する溜池にも生息する)は偏差が大きいことが明らかになった.標準偏差の大きい種のうちδ13Cの低い個体は溜池から流下したもの,値の高い個体は水路で生育したか溜池から流下した後かなりの時間が経過したものと考えられた.また骨のδ13Cと筋肉のδ13Cが大きく異なるタイリクバラタナゴを確認した.これは採捕地点以外で生育し個体群に移入したことを示す. 以上から,水域環境や流域の土地利用は魚類やベントスの炭素安定同位体比(δ13C)の標準偏差に影響を与え、生息環境や生態系が多様であるほどδ13Cの標準偏差が大きいことが明らかになった。 メタゲノム解析用の試料を得るため,岩手県いさわ南部地区で採水した.農業水路環境が異なる地点において水約1Lを採水し,うち,500mLをメンブレンフィルターでろ過した.ホモジナイザーを用いて,フィルターへの付着物をDNA抽出液に溶出させ,熱変性を加えることによりDNAサンプルを得た. 今年度は以下の予備実験を実施した.サンプルの一部を用いて,18SリボゾームRNA領域をPCR増幅させ,増幅の成否をアガロースゲルによる電気泳動で確認した.その増幅産物をクローニングすることにより,増幅産物の塩基配列データを取得した.結果として,電気泳動では明確な増幅バンドが出現し,PCR増幅に用いたプライマーが正常に働くことを確認した.クローニングで得た塩基配列データを相同性検索することにより,4界,28門,49網,86目,107科を特定することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多様な生態系では炭素・窒素安定同位体比の偏差が大きいのではないかという仮説が裏付けられ,定量的評価手法の一つとして用いる見通しがついた.また無生物界からDNAを抽出し種の多様性を計量する手段を農業水路で始めて適用し,水から代表種を推定することが可能であることを確かめた. 農業農村整備事業における環境配慮の,新たな評価手法としてこれらを用いることが可能であることが明らかになったことから,研究目的が概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
いさわ南部地区以外のサイトにおいて魚類の炭素・窒素安定同位体比を解析するとともに,魚類以外の生物についても分析を進め,水域特性や空間スケールの違いがこれら同位体比の標準偏差等に与える影響を明らかにする. また,生物群集の多様性を網羅的かつ同時に評価する手法としてのDNA解析手法を確立するとともに,検出された種群の環境選好性を利用して生態系の多様性評価に結びつける. これらを重層的に利用して,生態系に配慮して施工された農業農村整備事業の定量的評価を行う.
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