都市の緑は蒸発散により都市を冷やすと考えられているが,緑地が冷えるのは,蒸発散の効果だけでは必ずしも説明出来ない場合がある。その原因には,小さい葉の集合体である植物と大気との顕熱交換が大きく気温に近い温度になるため,見かけ上冷却されているように見えることが考えられる。そこで,本研究では,葉の集合体としての樹木と大気との熱交換の特性や,樹木の三次元構造が熱収支に及ぼす影響の解明をその目的として,ミクロの個葉からマクロの公園レベルまで,測定とシミュレーションによる解析を行った。 本年度は,昨年度までの個葉の熱伝達係数の測定実験により求められたデータをもとに,シミュレーションを行った。また,リモートセンシングにより測定された都市表面温度の解析を行い,都市緑地とシミュレーション結果との比較を行った。シミュレーションでは,植物の立体形状モデル,熱収支,気流解析モデルを使用し,熱収支の各項,気温,湿度,風速などを求めた。測定された表面温度との比較では,新宿御苑の一部を対象区域として,その樹木の立体構造を用いてシミュレーションを行ない比較した。その結果,昼は樹林の表面温度が低く,夜は芝生の表面温度が低いという現象が,表面温度の絶対値はシミュレーションのほうがやや高くなるものの,再現できた。樹林が夜に低温とならないのは,その熱伝達係数が高いことが理由と考えられる。以上のようなシミュレーションと測定との比較の結果から,樹木の熱伝達と都市を冷却する機構について重要な知見が得られたといえる。
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