研究課題/領域番号 |
25450370
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
大槻 隆司 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (70313781)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | クロストリディウム / 水素生産 / デンプン / 麦ワラ / 相乗効果 |
研究概要 |
本研究では、易利用性ではあるがまだ十分に活用されていない廃棄バイオマスを「促進剤」として添加することで、難利用性バイオマスからの有用物質生産性を向上させる手段に着目した。「促進剤」の役割を担う廃棄バイオマスをデンプン工場廃液、難利用性バイオマスを麦ワラとして想定し、定置型燃料電池による電力回収の燃料として利用するための水素を生産する研究を行った。 バイオマスを資化して直接水素生産可能なクロストリディウム属細菌を対象とし、麦ワラ粉末を炭素源とした培養における水素生産を比較した結果、C. butylicum、C. perfringens、C. cellulovoransの3種の菌株を用いて比較検討を行うことに決定した。0.5あるいは1.0%の可溶性デンプンを含むGS培地を用いて、麦ワラを炭素源とした水素生産を行い、各菌株について水素の生産量および生産収率に及ぼす影響を調べた。1.0%麦ワラ粉末のみを炭素源とした培養ではいずれの菌株においても、上記の選抜試験時と同様に200 mL/L culture程度の水素生産しか得られなかったが、1.0%デンプンを添加することで1600 mL/L cultureと、水素生産量が著しく増大した。麦ワラを添加しないデンプン単独での水素生産量が900 mL/L cultureであることを考えると、デンプンを添加することで麦ワラ由来の水素生産量は3倍に増大しており、麦ワラにデンプンを共存させることで、相乗的効果により総計の水素生産量が著しく増大することを見いだした。麦ワラにデンプンが共存することで水素生産性が増大することが確認できたので、酵素生産性や糖代謝経路のフラックス変化などの寒天から水素生産性増大に関与する要因の解析を行っていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
麦ワラを培養基質とした直接水素生産において、デンプン添加により、麦ワラ・デンプンそれぞれ単独を基質として培養した場合の生成水素量の合算を遙かに上回る水素生産が達成できた。今後はこの相乗作用の機構を明らかにし、水素生産能力の向上に活かしていくことが課題となる。 麦ワラへのデンプン添加による相乗的水素生産量増大効果の要因のひとつとして、多糖分解酵素群の発現量もしくは活性の変化が考えられたため、培養上清を酵素源としてアミラーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼの活性動態調査を試みたが、セルラーゼならびにキシラナーゼについては培養液中に麦ワラが存在するとほとんど活性を検出できなかった。本研究で用いたクロストリディウム菌株は、いずれもセルロソームと呼ばれる多糖分解酵素複合体を形成することが知られており、セルロソームは標的基質に強固に吸着することが知られている。このことから、生産されたセルラーゼ、キシラナーゼの大半はセルロソームの形で麦ワラに吸着してしまい、培養上清を酵素源とした活性測定では酵素活性の変化を正確に評価できていないと考えられた。 次年度は、麦ワラに吸着しているセルロソームを遊離させて、培養条件の違いによる酵素活性量の変化を追跡するための解析条件の決定を行う。さらに、本年度の結果より、デンプンの添加により、麦ワラを資化する際の代謝動態に変化が生じている可能性が示されたことから、1.0%麦ワラ粉末のみを炭素源とした場合、1.0%デンプンのみを炭素源とした場合、ならびに両炭素源を共存させた場合についてサンプリングを行い、解糖系に関わる代謝産物を中心に、代謝動態の差異が見いだせるかどうかについて検討を行う予定である。
|