本研究では入射する電磁波の波長と同程度の周期をもった金属構造体が、微小な誘電特性の変化を検出できるセンサとして機能することを利用し、迅速かつ簡便な細菌検査技術への応用検討を行った。初年度では「簡易総菌数計測」として、メンブレンフィルター表面に捕集した細菌に対して、金属メッシュを組み合わせることで高感度に検出できることが確かめられた。2年度目は「菌種判定計測」への応用に着手し、特定細菌の特異的な検出を可能にするために、金属構造体の表面に抗体を固定化するプロトコルを検証し、センサ表面に細菌を特異的に捕捉できることが確かめられた。最終年度では、生乳中のタンパク質や脂肪球などの不純物が定量に与える影響を評価するため、生理食塩水中と生乳中にそれぞれ大腸菌を懸濁したものを供試し、センサの定量性の比較を行った。 検査の簡便性・迅速性を損なわない程度であれば、遠心処理により不純物の除去ならびに対象物の濃縮を行うことが効果的と考えられる。そのため、まず初めに、不純物の除去と細菌の回収に最適な遠心条件の検証を行ったところ、乳中細胞や脂質、タンパク質などを除去しつつ、もとの約90%の細菌数を捕集することができることが確かめられた。それを、金属周期構造のセンサに供試して定量評価を行ったところ,菌数に応じて定量的に検出可能であった。しかし生乳中ではその検出感度が1ケタ以上悪くなり、ばらつきも増加する傾向が得られたため、最適な抽出手法の検討が必要であることがわかった。 また、将来の実用化を見据えると、量子カスケードレーザ(QCL)のような単色光源を用いた方式が考えられる。そこで赤外域の波長可変型QCLを用いて金属周期構造の透過測定を行ったところ、汎用的なフーリエ変換型分光光度計では見られないような急峻な共鳴ピークが確認できたため、将来的なセンサの高感度化も期待される結果が得られた。
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