研究課題/領域番号 |
25450390
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
松本 浩道 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (70241552)
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研究分担者 |
福井 えみ子 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (20208341)
吉澤 緑 宇都宮大学, 農学部, 教授 (60114162)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 繁殖 / 生殖 / 着床 / 受胎 / 妊娠 |
研究概要 |
体外受精胚の移植は、受胎率および産子生産率が低く、多くの研究にもかかわらず改善されていない。このことは従来の研究に加え、新規のアプローチが必要であることを物語っている。我々の最近の研究結果は、着床関連因子を三つの因子群に分類する必要性を示唆していた。すなわち、着床に必要な因子である因子A群、着床に必要な因子で着床時に局在の変化する因子B群、着床能力誘起時に発現するが着床期には消失しなければならない因子C群、である。因子A群はこれまでの研究で標的とされてきた特性であるのに対し、因子B群とC群は我々の最近の研究結果を基に設定する必然性が示された、新たな特性と項目である。本研究では、これら三因子群の発現動態の解析を基軸に胚の着床能力獲得を制御する機構解析を行い、その成果を基に受胎率を向上させる体外培養系を構築する。 本年度は、マウスの着床遅延モデルを用い、因子A群と因子C群を中心に解析を進めた。着床誘起胚において、エストロゲン受容体であるERαは胚盤胞の栄養外胚葉で発現が誘起されていた。この発現は培養6時間で消失した。タンパク質分解酵素であるプロテアソームの阻害剤MG132で処理するとERαの発現は維持された。これらの胚を子宮に移植したところ、ERαの発現が維持されている胚では低い着床率を示した。MG132でERαの発現が維持されている胚をER拮抗剤ICI 182,780で処理した胚盤胞を胚移植したところ、着床率は回復した。これらの結果から、マウス胚においてユビキチン-プロテアソームを介したERα分解が着床の成立に必要であることが示された。一方で、この過程において発現したBrca1は分解されていない。すなわち、Brca1は因子A群、ERαは因子C群、にそれぞれ分類できる。また、着床する際に必要なタンパク質分解は選択的に制御されていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の最近の研究結果は、着床関連因子を三つの因子群に分類する必要性を示唆していた。すなわち、着床に必要な因子である因子A群、着床に必要な因子で着床時に局在の変化する因子である因子B群、着床能力誘起時に発現するが着床期には消失しなければならない因子である因子C群、である。 本年度は、この因子C群について研究を進展させることができた。すなわち、着床誘起胚においてエストロゲン受容体ERαが発現しているが、このままでは着床へと進行することが出来ない。着床能力を獲得する為には、ユビキチン-プロテアソームを介したERαの選択的な分解が必要であることを明らかにした。つまり、着床誘起胚は着床に重要な分子を発現しているものの、その状態では着床する能力は完成しておらず、ERαのような標的特異的なタンパク質分解が必要である。この結果は、着床能力獲得過程における分子機構について新たな知見を加えたものである。また今後、体外受精胚の移植における受胎率および産子生産率の改善の指標にすることが出来る点でも重要な結果である。
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今後の研究の推進方策 |
1) 着床関連因子の人為的発現制御. 着床に必要な因子の解析と体外培養系での発現を評価する。標的として検討するのは着床能力獲得時に発現する因子A群のうちノックアウトマウスで早期胚性致死を示す遺伝子とする。ここでは、Brca1を第一候補とする。リアルタイムPCR法でmRNAの発現量を、タンパク質の発現と局在は免疫蛍光染色法で解析する。細胞培養系でBrca1発現を誘導する因子を培養液に添加し、体外受精由来の胚盤胞におけるBrca1発現誘起の可否を解析する。また、胚盤胞の特性からも液性因子を選抜し、着床関連因子の上流因子を培養液に添加し検討する。Brca1の発現誘導が確認されたら、他の着床能力獲得に関与する遺伝子発現の検討を開始する。これまでの研究で、体外受精由来胚盤胞では多くの着床関連因子の発現が低下していることが分かってきた。しかしながら、それら発現の全てを効率的に誘導する手法は確立されていない。主要な因子とその作用機序を明らかにし、重要な分子経路を賦活化することで着床能力を改善する体外培養系の樹立を試みる。 2) 着床時に局在が変化する因子の解析と体外培養系での発現評価. 着床時の局在性が変化する因子B群は、着床時期に達したかを容易に判定するツールになりうる。我々はTinagl1がこの発現動態を示すことを明らかにしている。この特性を判定基準として、体外培養系における着床能力を評価する。また前述のBrca1の発現動態も併せて解析する。Tinagl1は着床直前の胚盤胞における局在の変化が着床能力の評価指標として有効である。また発現動態からは、着床後の早期に胚性致死になるものと推察される。しかしながら、着床前後の胚と子宮のそれぞれで必須であるかについては不明である。そこでTinagl1遺伝子ノックアウトマウスを作出し、発生と妊娠のどの時期にどのような機能変異をもたらすかを同定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
遺伝子解析を含め、いくつかの実験項目が予定よりはかどらなかった。また、研究成果を発表するための旅費をさほど使用しなかった。以上の理由から、次年度使用金額が生じた。 実験を円滑に進める為の物品費として使用する。また、研究成果を学会等で発表するための旅費としても使用する。
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