体外受精胚の移植は、受胎率および産子生産率が低く、多くの研究にもかかわらず改善されていない。このことは従来の研究に加え、新規のアプローチが必要であることを物語っている。我々の最近の研究結果は、着床関連因子を三つの因子群に分類する必要性を示唆していた。すなわち、着床に必要な因子である因子A群、着床に必要な因子で着床時に局在の変化する因子B群、着床能力誘起時に発現するが着床期には消失しなければならない因子C群、である。因子A群はこれまでの研究で標的とされてきた特性であるのに対し、因子B群とC群は我々の最近の研究結果を基に設定する必然性が示された、新たな特性と項目である。本研究では、これら三因子群の発現動態の解析を基軸に胚の着床能力獲得を制御する機構解析を行い、その成果を基に受胎率を向上させる体外培養系構築を展開した。 本年度は、着床に必要な因子の解析と体外培養系での発現を評価した。標的として検討するのは着床能力獲得時に発現する因子はA群とB群に加え、C群も解析した。その結果、プロラクチン、EGF、4-OH-E2の複合処理によりマウス胚盤胞においてBrca1、EGFレセプターおよびTinagl1の発現を賦活化することが明らかになった。この複合処理はC群であるERαの発現を賦活化することはなかった。胚移植を行ったところ、上記の3因子の複合処理は着床率を向上させた。 B群であるTinagl1のノックアウトマウスの作製した結果、雌マウスで様々な不妊症状を示すことが明らかになった。この不妊症状は、卵巣機能の不全によるものではなく、子宮機能の異常によることが示唆された。 ウシにおいては、遺伝子型をデザインすることにより高い経済形質をもつ黒毛和種の子牛を効率的に生産できる可能性が示唆された。
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