研究課題/領域番号 |
25450402
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
柴田 昌宏 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 近畿中国四国農業研究センター畜産草地・鳥獣害研究領域, 主任研究員 (60370631)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肉用牛 / 肥育 / 遺伝子発現 / 骨格筋 / 放牧 / 飼料イネ |
研究実績の概要 |
本研究では、肉用牛の肥育過程で、肥育・枝肉成績、肉質等を反映する遺伝子の探索と同定ならびにその発現プロファイルを解明することを目的する。 本年度は、飼料イネWCSの長期給与、肥育初期または肥育後期に放牧を取り入れた肥育試験を行い、その肥育・枝肉成績及び肉質の分析結果を得た。また、これらの試験において肥育過程の供試牛から遺伝子の発現解析のための筋肉試料をバイオプシーにより得た。飼料イネの長期給与および肥育初期の放牧において、肥育・枝肉成績及び肉質は濃厚飼料多給の慣行肥育(対照区)と比較して同等であった。 肥育初期に放牧を行い、中期以降に飼料イネWCSを舎飼で多給した供試牛では、放牧後に対照区と比較して若干の体重の減少が見られたが、その後のWCS給与により体重の回復が見られ、この時に代償性成長を示唆した。この試験区において筋肉内遺伝子の発現解析を行った結果、放牧前期のミオスタチンの発現上昇ならびにミオシン重鎖の発現減少および放牧後期からWCS多給時にミオスタチンの発現減少することを明らかにし、この結果は、前年度に実施した肥育中期の放牧試験の結果と一致し、これら遺伝子の発現プロファイルは代償性成長を支持する結果となった。 肥育後期に放牧を行った供試牛では、枝肉重量の減少および肉質の低下が認められた。肥育後期の筋肉内遺伝子発現ではミオスタチンの発現減少ならびにミオシン重鎖およびフォリスタチンの発現増加が見られ、この時期に筋肉の成長が亢進状態にあることを示唆した。一方、脂肪合成に関する遺伝子C/EBPαおよびPPARγ2は発現減少が見られ、脂肪蓄積は抑制状態であることを示唆した。また、放牧肥育について、血中IgGの減少ならびにHSP27とHSP40の発現が放牧により減少していたことから、舎飼と比べて放牧はストレス負荷が少ないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度は、放牧と舎飼で飼料イネWCS多給を組み合わせた肥育試験を実施し、合計2試験区での肥育・枝肉成績ならびに各種試料の採取を完了している。また、次年度終了の新たな試験区の肥育試験を開始しており、これは当初の計画を上回る進捗となっている。この中で放牧後に飼料イネWCSを多給した試験区では遺伝子の発現プロファイルと肉用牛の生産性を関連付ける結果を得ており、この結果は、国際学会において発表を行い、短報に相当するプロシーディングが発刊されている。また、肥育後期に放牧肥育を行った肥育牛の筋肉内遺伝子発現に係る試験および放牧牛における放牧の健全性評価について、それぞれ論文としてまとめオープンアクセスジャーナルに掲載されており、当初の計画を上回る進捗となっている。 肉用牛の骨格筋成長に係わる物質の探索では、昨年度、若干の遅延が生じたが、26年度は当該物質の探索の結果、新たな候補物質を絞り込み、一部の遺伝子については、先にまとめた論文において肉質との関連を考察しており、この部分においても順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに採取した試料について肉用牛の生産性に係わる遺伝子の発現解析を進め、肥育・枝肉成績及び肉質データとの関連性について調査、解析を行う。 遺伝子の発現プロファイルによる肥育・枝肉成績及び肉質の推定について精度の向上を図るため、マイクロアレイまたは次世代シーケンサーによる解析を進め、生産形質と関連する候補遺伝子についてスクリーニングし、それらについてリアルタイムPCRによる発現解析を実施し、肥育・枝肉成績及び肉質との関連性について解析を進める。 多様な試料、肥育・枝肉成績を得るため、今年度は3試験区での肥育試験の終了を予定し、それぞれの試験区において筋肉試料等の採取ならびに肥育・枝肉成績、肉質データについて分析、取得し、発現遺伝子との関連について解析を進める。 多様な肉用牛肥育試験で得られた試料について肥育・枝肉成績、肉質等の生産形質に影響する候補遺伝子の発現解析から、その妥当性を検証し、骨格筋形成に係る遺伝子の発現プロファイルを明らかにする。これらから遺伝子の発現プロファイルを活用した分子飼養技術を開発し、肉用牛肥育技術について提唱する。さらに、骨格筋形成に関与する候補遺伝子の発現解析を実施し、この解析結果と各種飼養試験で得られた肥育成績との間で相関解析を行い、生体レベルにおける骨格筋形成機構の解明について考察する。
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