本研究では肉用牛の肥育過程で肥育・枝肉成績、肉質等を反映する遺伝子の探索及びその発現プロファイルを解明する。 肉用牛の肥育は、飼料イネWCS等の自給粗飼料またはこれに放牧を組み合わせた飼養方法(試験区)で実施し、濃厚飼料多給舎飼いの慣行肥育(対照区)との間で肥育・枝肉成績、肉質ならびに筋肉内遺伝子発現について比較検討を行った。試験区の牛肉はビタミン含量の増加、ドリップロスの改善が対照区と比較して認められ、これ以外の栄養成分、テクスチャーでは有意な変化が認められなかったが、粗蛋白質の増加傾向、粗脂肪の減少傾向が認められた。また、肥育・枝肉成績について、放牧を取り入れた飼養方法では放牧直後に一時的に増体の遅延が認められたが、その後、代償性成長と考えられる増体の回復が認められ、枝肉重量等の生産性に有意な影響は認められなかった。 肥育・枝肉形質、肉質等を反映する筋肉内遺伝子の発現解析において、ミオシン重鎖、Myostatin及びAtrogin-1の発現から放牧直後には、骨格筋の成長が抑制状態にあり、その後、放牧後期あるいは放牧後の舎飼い時には、骨格筋の成長が亢進状態にあることが明らかとなり、この時期の代償性成長の可能性を支持する結果となった。また、筋肉内の蛋白質蓄積及び脂肪蓄積では、前者はミオシン重鎖、Myostatin及びAtrogin-1について、後者はC/EBPa、Pref-1の筋肉内遺伝子発現から、生産性を反映する発現が認められた。 肥育過程における筋肉内の一部の遺伝子発現は、生産形質を反映することが明らかとなり、この活用は肥育試験の短縮につながることが示唆された。また、テクスチャーと関係がある遺伝子については、物性変化との間で高い相関は見られなかったが、この遺伝子は試験区間で発現変動が認められ、物性等の肉質と遺伝子発現の相関については、研究の進展が期待されるところである。
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