本研究は、耕作放棄地を利用した緬羊の放牧について、緬羊による除草効果とそれに伴う景観保全だけでなく、子緬羊や羊肉の販売を見据えた緬羊生産体系の確立を目指し、耕作放棄地を農地として再生し、食糧自給率の向上も期待できる技術の開発を目的とした。具体的には、耕作放棄地への導入以前における放牧経験の有無や品種による行動の違い、放牧に伴う野生動物の出没状況の変化、防虫耳標による有害昆虫の防除効果、および加工羊肉の品種間比較等を検討した。 その結果、放牧経験の有る個体を群れに加えることで放棄地への馴化が早まることや、サフォーク種の群れに、より活動的な品種(本実験ではポールドーセット種)を混飼することで群れ全体の摂食行動が活発になること、また放牧に伴って近隣農地への野生動物の出没が減少して農作物被害の軽減につながることなどを明らかにした。さらに、イヤータグ型の殺虫剤を装着することで、有害昆虫の飛来が減少し、尾振りや身震いなどの身繕い行動が少なくなるほか、トラップで捕らえられる昆虫数も減少した。加えて、羊肉の加工適正の検討も行ったが、サフォーク種と、サフォーク種とポールドーセット種のF1との差は明確ではなく、肉あるいは加工品の生産まで行わなくても、それらを行っている事業者に子羊を販売するなど、比較的省力的な生産体制を選択することも望ましい方策のひとつと考えられた。
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