堆肥中で大腸菌が再増殖する際に利用する基質、また大腸菌の基質利用に対して競合的に働く細菌群を明らかにするため、堆肥に13C標識をしたトウモロコシ子実(未消化飼料のモデル)、グルコース(デンプンやセルロースの構成単糖)、または菌体バイオマス(堆肥化で死滅した微生物の体構成成分のモデル)を添加し、大腸菌の動態と堆肥中の細菌群によるこれら13C標識基質の取り込みをStable Isotope Probing(SIP)法により解析した。 初年度に分離した長期間にわたり堆肥中で残存していた3株の大腸菌を同じ菌数になるように混合し、13C標識基質を添加したそれぞれの牛糞堆肥へ接種した。培養期間については、グルコースは1日、菌体バイオマスは3日、トウモロコシ子実は5日間とし、培養前後の大腸菌の増減を希釈平板法で測定した。グルコースの添加により、大腸菌数は培養前に比較して4倍程度まで増加したが、菌体バイオマスおよびトウモロコシ子実の添加では、大腸菌数に大きな変化は認められなかった。 13C標識基質の取り込みをSIP法により解析した結果、グルコースにおいてはPhyllobacteriaceae科およびMycobacterium属細菌による顕著な取り込みが認められた。菌体バイオマスにおいては、Sphingobium属およびSimplicispira属細菌による取り込みが顕著であった。後者は活性汚泥からの分離例があり、菌体バイオマスが豊富な環境中に生息する細菌が堆肥中においても積極的に菌体成分を利用していると考えられた。トウモロコシ子実においては、生デンプンの分解能をもつStreptomyces属細菌の取り込みが顕著であった。グルコースの添加は大腸菌数を増加させる傾向にあったが、いずれの基質においても大腸菌に対して競合的に基質を利用する細菌群の存在が明らかになった。
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