研究課題
本研究では、インフルエンザウイルスHAと亜型間交差反応性抗体S139/1の立体構造を基に、計算科学的手法を用いて、HAと抗体との分子間相互作用を解析し、様々なHA亜型に結合するS139/1の分子認識機構を明らかにすることを目的としている。さらに本研究では、既知のHA-抗体複合体構造を鋳型に、抗体の親和性と特異性を操作し、多くのHAを認識する新規抗体の設計を目指している。平成27年度は、これまで行ってきた結合自由エネルギー計算を、他のHA亜型や変異体に対しても拡張して行い、結果をさらに詳細に解析した。結果全体で見ると、中和される株のHAはS139/1と強く結合し、中和されない株ではS139/1との結合が弱かった。すなわち、本研究で考案した分子モデリング、結合自由エネルギー計算のプロトコルを用いることによって、実験結果を定性的によく再現できることが分かった。さらに、結合自由エネルギーのエンタルピー項をアミノ酸残基ごとに分解し、分子間相互作用におけるHAおよび抗体上の各残基のエネルギー寄与を解析した。その結果、98、136、153、156、158、159、193、194、196、226番目(H3 numbering)の残基が、中和される株に共通して強く結合していた。さらに分子間力を詳しく解析した結果、中和される株のHAでは、156、158、193番目のアミノ酸残基がS139/1と水素結合または塩橋を形成し、結合に非常に重要であることが分かった。実際、S139/1のエスケープ変異株では、これらの位置に変異が起こることが実験で確認されている。これらの結果は、中和される株としない株および抗体からのエスケープ変異を計算機シミュレーションで予測できる可能性を示唆している。
3: やや遅れている
本研究の遂行に最も重要な分子シミュレーションの計算に、想定以上の時間を要してしまったため。
今後も申請書を基に計画を進めて行く予定である。具体的には、既知のHA-S139/1複合体構造を基に、中和されないHAを中和するようにS139/1を分子設計し、実験で検証を行う予定である。
当初予定していたより、分シミュレーションに時間がかかってしまい、抗体の分子設計を開始する時期が遅れてしまった。これにより、抗体分子設計のためのソフトウェアの導入時期が遅れてしまったため。
昨年度計画した通り、バーチャルファージディスプレイ法を用いた抗体の分子設計を行うため、専用ソフトウェアを購入する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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