研究課題
本研究では、インフルエンザウイルスのHA蛋白質とモノクローナル抗体S139/1との複合体結晶構造を手がかりに、異なる複数のHA亜型のウイルスに対して中和活性を有するS139/1の分子認識機構を計算科学的手法により明らかにすることを目的としている。さらに本研究では、既知の抗原-抗体複合体を鋳型に、抗体の親和性と特異性を計算機上で操作することによって、新たな抗原構造を認識する新規抗体の分子設計への展開を目指している。前年度まで得られた成果に基づき、平成28年度は分子動力学計算から得られる結合自由エネルギーを指標に、S139/1の抗原認識能を改変し、S139/1からエスケープ変異したウイルス株を中和するモノクローナル抗体の分子設計を試みた。我々はすでにS139/1が存在する環境下で、A/Aichi/2/68(H3N2)ウイルスを培養すると、HA上156番、158番、193番目のアミノ酸に変異を持ったウイルスが選択されてくることを報告している。本年度は手始めに、158番目のアミノ酸置換によりエスケープ変異したウイルス株を中和するモノクローナル抗体の分子設計を試みた。はじめにHAとS139/1の分子動力学計算の結果から、HAとS139/1の結合に大きく寄与している抗体CDR上の残基位置を同定した。続いて変異HAとS139/1の分子動力学計算の結果から、158番目のアミノ酸置換によって結合に歪みが生じる抗体CDR上の残基位置を同定した。これら歪みの生じた残基位置に、計算機上でアミノ酸置換を網羅的に導入し、分子動力学計算により結合自由エネルギー計算を行った。このうちいくつかはエスケープ変異前のHAとS139/1の結合エネルギーと同程度まで回復した。今後、設計した抗体をS139/1の組み換え抗体として作出、中和活性試験等の実験で評価するとともに、抗体の新たな分子設計手法の確立を目指す。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
MBio
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http://www.czc.hokudai.ac.jp/epidemiol/members/igarashi/