研究課題
宿主の生存はトキソプラズマ原虫の生存にとって必須であり、通常、原虫の増殖は、宿主免疫系によって抑制され、原虫はシストを形成し、脳内あるいは筋肉内に維持され慢性化する。しかしながら、原虫自身がその生存戦略のために病原性をコントロールしているという証拠はまだない。申請者らは慢性感染ステージ特異的に発現するTgDPA分子がマウスへの病原性を抑制的に制御している可能性を見出した。本研究は、TgDPA分子と病原性との関わりを検討し、TgDPAの病原性抑制のメカニズムを明らかにすることを目的としている。本年度はTgDPA強制発現株を樹立しDPAノックアウト株および野生株との病原性の比較を行なった。TgDPA強制発現株の病原性は野生株に比較し低い傾向にあり、DPAノックアウト株の病原性が高くなることと合わせて、TgDPA分子が何らかのメカニズムにより、病原性を抑制しているものと考えられた。しかしながら、感染マウスにおけるサイトカイン量には顕著な差異は認められなかった。そこで野生株、DPAノックアウト株およびTgDPA強制発現株についてin vitro培養系で増殖した急性型虫体からRNAを調製し、RNAseq法による網羅的な発現解析を行った。発現の違いが認められた上位約100遺伝子のうち、10%はシスト形成にともない発現が変動することで知られている遺伝子であり、25%はデータベース上で慢性期虫体に多く発現していることを示唆していた。一方で、病原性因子として知られている遺伝子に関しては、発現の顕著な違いは認められなかった。以上のことから、TgDPA分子がシスト形成時の遺伝子発現の変動に関与しており、発現パターンが急性期および慢性期虫体のそれにシフトすることが病原性に影響している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は研究計画に従ってTgDPA強制発現株の樹立を行ない、マウスモデルでの病原性を確認した。DPAノックアウト株の病原性が上昇しTgDPA強制発現株の病原性が低下することから、TgDPA分子がマウスへの病原性を抑制的に制御していることを示唆し、研究目的の一つであるTgDPAの病原性への関与を明らかにした。また、網羅的な発現解析によりTgDPA分子がシスト形成過程における発現の動態に関与していることを示唆し、今後TgDPA分子の機能を調べるための基礎データを得た。
TgDPA分子の有無により発現が変動する遺伝子の中から解析をする遺伝子を絞り込み、株間での発現量の差異をリアルタイムRT-PCRで確認する。さらにDPAノックアウト株および強制発現株を用い、in vitro培養系でのステージ変換誘導後の発現を継時的に測定する。その生物学的性状および宿主免疫応答を感染実験モデルおよび培養系を用いて解析し、野生株と比較することにより、DPA分子の病原性との関わりを探索する。
感染マウスにおける免疫応答に差が認められなかったため、詳細な免疫学的解析を行わなかった。
研究の推進方策に従って、ノックアウト株および過剰発現株の性状解析を行なうための消耗品に支出する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
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10.1016/j.jmb.2014.09.019.
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http://doi.org/10.1292/jvms.13-0632