研究課題
基盤研究(C)
インフルエンザは毎年冬になると流行し、多くの犠牲者を出す。また、数十年に一度起こるパンデミックや、鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染も、社会的に大きな問題となっている。本研究では、インフルエンザの病原性発現において、ウイルス表面糖蛋白質ヘマグルチニン(HA)が果たす役割を明らかにすることを目指す。平成25年度は、1918年にパンデミックを起こしたスペイン風邪インフルエンザウイルス(以下、スペイン風邪ウイルス)に加えて、2013年に中国においてヒトから分離されたH7N9インフルエンザウイルス(以下、H7N9ヒトウイルス)の、HAの性状解析も行った。まず、スペイン風邪ウイルスとH7N9ヒトウイルスのレセプター特異性をグリカンアレイ法によって調べた。対照として、季節性インフルエンザウイルス(以下、季節性ウイルス)と鳥から分離されたインフルエンザウイルス(以下、鳥ウイルス)を用いた。その結果、スペイン風邪ウイルスと季節性ウイルスは、ヒト型レセプターと結合し、鳥ウイルスは鳥型レセプターと結合した。それに対して、H7N9ヒトウイルスは、ヒト型と鳥型の両方のレセプターを認識した。スペイン風邪ウイルスのHAが、病原性発現と宿主応答にどのように関わっているかを調べるために、スペイン風邪ウイルスのHAを持つ季節性ウイルス(以下、スペイン風邪HAウイルス)をマウスに感染させた。本ウイルスは、普通の季節性ウイルスと比べて、マウスの肺で効率よく増殖し、強い免疫反応を伴う致死性の肺炎を起こした。スペイン風邪HAウイルスを感染させたマウスの肺での宿主応答を調べたところ、ウイルス感染における急性期反応とプロテインユビキチネーション経路に関連する遺伝子群の発現上昇が顕著であった。以上の結果から、HAが、スペイン風邪ウイルスを感染させたマウスにおける強い免疫応答を誘導する因子であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、インフルエンザウイルスの病原性発現におけるHA蛋白質の役割を明らかにすることを目的として、1)病原性の高いインフルエンザウイルス(例えば、スペイン風邪ウイルス)のHA蛋白質は、他のウイルス株のHA蛋白質と比べて、その機能活性に違いはあるか?、および、2)病原性の高いインフルエンザウイルス(例えば、スペイン風邪ウイルス)のHA蛋白質を導入した宿主(細胞および動物)では、どのような反応が起こっているのだろうか?の2点について、調べることを提案している。1)については、平成25年度は、各ウイルス株のHAのレセプター特異性の比較検討を行った。病原性の高いスペイン風邪ウイルスのHAと、病原性の低い季節性ウイルスのHAは、ともにヒト型レセプターを良く認識した。以上の結果から、レセプター特異性は、スペイン風邪ウイルスの病原性発現に影響しないことが明らかとなった。2)については、スペイン風邪ウイルスのHAを持つウイルスを感染させたマウスにおける、病原性発現と宿主応答を調べたところ、スペイン風邪ウイルスのHAが強い免疫応答を誘導する因子であることが明らかとなった。以上の結果が得られたことから、本研究は、おおむね順調に進展していると考えられる。
今後は、引き続き、スペイン風邪ウイルスと他のウイルス株のHA蛋白質の性状解析を行う。HA蛋白質の膜融合活性や熱安定性などを調べ、スペイン風邪ウイルスとその他の株において、HAの機能活性に違いがあるかどうかを明らかにする。また、スペイン風邪ウイルスのHA蛋白質を宿主(細胞あるいはマウス)に導入した時に起こる宿主応答について調べる。スペイン風邪ウイルスと他のウイルス株のHA蛋白質を導入した細胞および動物における遺伝子発現パターンを比較検討することによって、スペイン風邪ウイルスのHA蛋白質が、他の株と比べて、より強い免疫応答を誘導するかどうかなど、ウイルス株間での宿主応答の違いを明らかにする。さらに、スペイン風邪ウイルスのHAと相互作用する宿主因子を同定し、また上記の遺伝子発現プロファイルの結果と併せて、スペイン風邪ウイルスの病原性に関わる可能性のある宿主因子の同定を目指す。
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