M13ファージはアジュバントの添加を必要とすることなくMyD88依存的経路で強いIgG抗体応答を誘導するが、M13ファージに対する免疫応答の詳細については不明な点が多い。本研究課題では、M13ファージ粒子を担体としたワクチン開発を目的として、M13ファージが誘導するIgG抗体応答の解析およびファージワクチンの可能性について検討を行った。 1. M13ファージ免疫により誘導されるIgG抗体応答:M13ファージのPBS溶液を投与し得られた血清を用いて、誘導されたIgG抗体の抗原特異性をウェスタンブロッティング解析およびELISA法にて解析を行ったところ、ファージ投与14日後ではファージのg3蛋白に結合するIgG抗体のみが検出され、2回目の投与後ではファージのg3蛋白に加えて、g8蛋白を認識するIgG抗体の誘導が認められた。 2. ファージワクチンの作製と抗体応答:ファージのg3pもしくはg8p分子のN末端に、インフルエンザウィルスのM2蛋白、アミロイドβペプチド (Aβ) およびスギ花粉アレルゲンであるCry j 1の一部の配列を提示させたファージ粒子を作製した。Aβの一部の配列をg8p分子に提示させたファージでは、一次応答の段階からAβ特異的IgG抗体の誘導が認めれらた。一方、Aβの一部の配列をg3pに提示させたファージでは、2回目の投与で抗体応答が認められた。Cry j 1の一部の配列を提示させたファージにおいても同様の結果であったことから、ファージ上への抗原分子の提示方法の違いにより、抗体応答誘導のメカニズムが異なることが示唆された。 M13ファージを担体としたファージワクチンの設計には改良の余地があるが、最近、M13ファージワクチンの臨床試験が実施され、ヒトへの副作用はないことが報告されており、ファージ粒子表面を抗原エピトープで覆ったファージ粒子は安全性の高いワクチンとして利用できると考えられる。
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