マラリア原虫のワクチンおよび新規抗原虫薬開発には、新たな生物学的特徴を分子レベルで明らかにする事が必要不可欠である。そこで本研究は、マラリア原虫生活環の特徴である媒介蚊体内のステージにおいて、未だ生物学的特徴が分子レベルで理解されていないオーシスト形成機構の解明を目的とし、以下の結果が得られた。 ① ネズミマラリア原虫の5種類の新規オーシスト壁蛋白質および2種類の新規オーシスト発現蛋白質を明らかにした。② これら蛋白質の機能解析のためにそれぞれの遺伝子欠損ネズミマラリア原虫(KO原虫)の作製を試みた。2種類の遺伝子についてKO原虫の作製ができた。③2種類の遺伝子のKO原虫と野生型(WT)原虫のマウス体内における動態を比較したところ、赤内型での増殖率には差は見られなかった。さらにギムザ染色を用いた各ステージの形態、感染赤血球率10~15%における雌雄ガメートサイト比、ガメート誘導後のエクスフラジレーション数ともKO原虫およびWT原虫において差は見られなかった。④KO原虫をマウスに感染させ、パラシテミア上昇を確認した後に媒介蚊に吸血させオーシスト形成試験を行なった。吸血後14~15日後の蚊を解剖し、中腸内のオーシスト数をKO原虫とWT原虫で比較したところ、2種類の遺伝子ともWT原虫に比べてKO原虫でのオーシスト形成数は有意に少なく、大きさも小型の傾向があった。⑤1つの遺伝子KO原虫はスポロゾイトのマウス感染が成立した。 以上より、それぞれの遺伝子は赤内型原虫の増殖及び形態には影響せず、蚊体内におけるマラリア原虫のオーシスト形成に重要な役割を担っていると推測された。さらに、1遺伝子は初期オーシスト形成に重要であり成熟オーシストでのスポロゾイト形成に関与しないことが明らかとなった。
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