研究課題/領域番号 |
25450435
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
田中 省吾 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究部門越境性感染症研究領域, ユニット長 (10355216)
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研究分担者 |
梁瀬 徹 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究部門越境性感染症研究領域, 上級研究員 (90355214)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アルボウイルス / 牛胎子骨格筋由来筋芽細胞 / 感染親和性 / 牛胎子感染実験 |
研究実績の概要 |
新興アルボウイルスであるサシュペリウイルス(SATV)とピートンウイルス(PEAV)の牛に対する病原性の有無と病態を明らかにするため、SATVは胎齢の異なる牛胎子骨格筋由来の培養筋芽細胞に接種し、感染動態からアカバネウイルス(AKAV)やPEAVに対する培養筋芽細胞での感染親和性の比較を試みた。また、PEAVは牛胎子に外科的に接種して流死産や体型異常等の病原性の再現を試み、以下の結果を得た。 1)胎齢84日の培養筋芽細胞ではSATV接種(M.O.I 0.01)後12時間以降、ウイルスのゲノムコピー数をリアルタイムRT-PCR法で計測するとSATVの増殖は昨年度実施したAKAVと同等であり、一方、接種後36時間で最も増殖したPEAVの10万分の1で、AKAVとは同等であった。また、胎齢150日および216日の培養筋芽細胞においても接種後12時間以降にSATVの顕著な増殖はみられず、72時間後までにゲノムコピー数が20000を超えることはなく、AKAVやPEAVに比べて低いことから、SATVは胎子胎齢にかかわらず骨格筋に対する感染親和性が低い可能性が示唆された。 2)妊娠149日および159日の母牛2頭を用い、外科的に左上腹部を切開して子宮外からフィンガーチップ型探触子で胎子エコー像を確認しつつピートンウイルス(KSB-1/P/06)を牛胎子の頸部筋肉内に接種(106.7TCID50)した結果、それぞれ妊娠287日(接種後138日)および妊娠291日(接種後132日)で正常分娩した。娩出された新生子牛は、体重32.7kgと31.5kgで体長は2頭とも87cmであり、肉眼的にも病理組織学的にも特に異常はみられず、胎盤や中枢神経系を含めて主要臓器からウイルスおよびウイルス遺伝子は検出されなかった。一方、新生子牛のPEAVに対する血清抗体価はそれぞれ16倍と4倍であったことから、これらの新生子牛はPEAVに感染はしたものの、異常産を再現するまでには至らなかったと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに実施した牛胎子骨格筋由来筋細胞を用いたAKAVとPEAVの増殖性の比較に加え、SATVの培養筋芽細胞における増殖性の比較を試みた結果、SATVは、由来牛胎子の胎齢にかかわらず培養筋芽細胞での増殖能が低く、AKAVやPEAVとは異なる病変形成機序が示唆された。このことからも本手法を用いることで異なる新興アルボウイルスによる体形異常の病理発生について筋芽細胞でのウイルス増殖性の関与を解明するための有効な手法であると考えられた。 また、妊娠母牛を用いた牛胎子へのPEAV感染実験は前年度の1頭に2頭を追加して実施された。本年度実施された牛胎子2頭(胎齢149日および159日)は正常に娩出され、病理組織学的検査において病変形成は認められず、ウイルスやウイルス遺伝子も検出されなかった。しかし、3頭ともにPEAVに対する中和抗体を有していたことから、感染実験を実施した胎齢でのPEAV感染は免疫応答により発症に至らない可能性が考えられた。PEAV感染による体形異常を伴う異常産の再現や病変形成を検索するためには胎齢早期における感染実験や感染後の早い時期に剖検・採材を行い、病理組織学的検査および免疫組織化学的検索が必要であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、牛胎子骨格筋由来筋芽細胞を用いたAKAV、PEAVおよびSATVの増殖動態をウイルスのゲノムコピー数をリアルタイムRT-PCR法で計測して得られた実験結果をまとめ、学会や論文で発表予定である。 また、前年度までに得られたPEAV感染牛胎子については、病理組織学的検査で著変は認められなかったが、ウイルス抗原を免疫組織化学的染色により検索し、牛胎子内でのウイルス増殖部位を明らかにする。さらに前年度実施できなかったPEAV接種後10日程度を経過した胎子を剖検・採材し、ウイルス学的および病理組織学的検査を実施し、PEAV感染によって形成される初期病変を検索して病理発生機序を解明する。
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