研究実績の概要 |
狂犬病は、狂犬病ウイルス(Rabies virus: RABV)を原因とする人獣共通感染症である。ひとたび発症すると確実な治療法はなく、致死率はほぼ100%である。本研究は、RABVに対する人工小型抗体(single chain variable fragment: scFv)をRABV感染細胞に導入して、RABVの増殖を阻害することにより、狂犬病の治療法への応用を目指している。課題期間はH25-27年度であったが、ナノ粒子を用いた人工小型抗体遺伝子のより高い導入効率の達成を目指して、研究期間を1年延長した。H28年度には以下の項目に関して研究を行った。
■ナノ粒子を用いたscFv遺伝子のin vitroデリバリー系の構築 本課題では、RABV-G蛋白質由来のペプチド29残基(RVG29)等のBBB透過性ペプチドを表面に外套したナノ粒子を作製し、血中投与によるscFv発現ベクターの神経細胞特異的なデリバリー系の構築を目指していた。しかし、近年のドラッグデリバリーシステム(DDS)研究の進展により、ナノ粒子を経鼻接種することで脳神経組織へのデリバリーが可能なことが報告され、血中投与よりも効率的かつ侵襲性が少ないDDSとして注目されるようになった。そこで、将来性を考えて当初の計画を変更し、経鼻接種を想定したナノ粒子の作製を行った。これまでに、ペプチド非外套のナノ粒子に抗RABV-P scFv 遺伝子を封入し、in vitroにおけるデリバリー系を構築した。ナノ粒子を階段希釈し、マウス神経芽腫由来MNA細胞に接種したところ、細胞毒性が見られない濃度範囲においては、用量依存的なデリバリー効率の推移が確認できた。また1, 2, 3日間の単独/連続投与を比較したところ、連続投与によりscFv発現細胞数が増加した。一方、市販のtransfection試薬による遺伝子導入と比較すると、導入/発現効率は低いことから、in vivo接種によりRABVの増殖阻害効果を検証するためには、in vitro段階でさらに遺伝子導入/発現効率を高める必要がある。
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