研究課題
昨年度から引き続き、牛卵巣中に存在する初期胞状卵胞 (直径0.5~1 mm) から採取した発育途上にある卵子 (直径約95 μm) の体外発育培養(IVG)法改善に取り組むとともにIVG卵子の発生能に影響を与える要因について検討を行った。また、体内で異なる発育段階にある卵胞から超音波ガイド下で卵子を採取し、その発生能と牛個体が固有の卵巣予備能との関係についても検討を行った。12日間IVGを行った発育途上卵子を、体外成熟培養 (IVM) 前にIBMXを添加した培地で卵子を10時間前培養し、IVMおよび体外受精(IVF)に供したところ、体内発育卵子と変わらない高い胚盤胞への発生率 (39%) が得られた。これらの受精卵をレシピエント牛に移植したところ、移植後16日目に正常な胚発育が確認されるとともに、正常な産子を得ることに成功した。また、昨年度とは異なり、エストロジェン添加IVG培地に骨形成タンパク質 (BMP) 4 を添加して培養したところ、顆粒層細胞からのプロジェステロン分泌を抑制し、発育培養中の顆粒層細胞の黄体化を抑制する効果が確認できた。体内発育卵子は超音波で確認できる直径2~3 mm以上の卵胞数が多いほど発生能の高いことが示唆された。野生動物への応用としてニホンザルおよびエゾヒグマから定期的に精子を採取し、安全かつ安定的に採取できる方法を検討中である。
2: おおむね順調に進展している
卵子の発育培養(IVG)中のミトコンドリア活性測定やステロイドホルモン産生能の検討など、平成26年度中の実験目的については予定通り進展している。体内発育卵子の発生能動態を検討するための超音波ガイド下での生体牛からの採卵を相当数繰り返し、体内発育卵子固有の発生能とそれに影響を与える要因をある程度確認できた。また、IVG卵子を体内発育卵子のモデルとして活用しより詳細な検討を開始している。現在、卵子内のミトコンドリア活性および活性酸素種産生量の確認を行うとともに、ミトコンドリア活性が低く発生能が低いと考えられる牛から採取した卵子の発生能改善に関する研究に着手した。野生動物種からの卵子採取は、個体死亡後に新鮮な卵巣を入手することが困難なため難航している。代わりに体外受精あるいは人工授精に必要な精子を安定的かつ安全に採取する方法の開発に取り組んでおり、クマ科動物からほぼ確実な採取方法を開発した。
①IVG実験:牛のOCGC培養に約2週間、体外受精を行うと更に1週間を要するため、1回の実験結果が出るまでに約1カ月を要する。その他の動物においては最適な培養期間すら不明である。そのため、本研究は複数年度に亘る研究を計画しており、平成25年度に実施した研究を継続して行う。②体内発育卵子の発生能に影響及ぼす要因に関する検討:体内で様々な発育段階にある卵胞から卵子を採取し、その発生能を確認する実験を継続する。同時にIVG卵子の様々な発育段階での性状を精査することによって、卵子の発生能獲得機序の解明を目指す。さらに、発生能が低いと考えられる卵子の発生能改善を目指した培養法の開発を行う。③内卵胞膜細胞が卵胞発育与える影響の解析:本IVG法では卵胞の構成細胞の一つである内卵胞膜細胞の機能解析を行うことは出来ない。そこで本研究では内卵胞膜細胞から分泌されるBMP-4の添加試験を行っている。BMP-4添加によって顆粒層細胞の黄体化が抑制されることが明らかになった。今後は、本IVG法で発育させた卵子の発生能について検討する予定である。④野生動物種への応用:動物園または野外で捕獲・安楽殺された動物から卵巣を採取し、卵子の培養を試みる。また、体外受精および人工授精に必要な精子の安定的な採取法の改善・開発を継続する。
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