研究課題/領域番号 |
25450442
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中川 貴之 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (40447363)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ミトコンドリア呼吸鎖複合体阻害薬 / メトホルミン / 犬乳腺腫瘍 / ニコチンアミドアデニンヌクレオチド |
研究実績の概要 |
申請者らは今年度、ミトコンドリア呼吸鎖複合体阻害薬(OXPI)が高悪性度であるCHMp-5b細胞に対してAMPK非依存的に細胞増殖抑制活性を引き起こすメカニズムを探索するために、網羅的遺伝子解析を行いOXPI感受性及び細胞増殖抑制に関わる因子・シグナル経路の探索を行った。その結果、OXPIに対する感受性に関連する因子・シグナル経路としてニコチンアミドアデニンヌクレオチド(NAD)の減少を新たに見出した。 この網羅的解析結果の検証を行うために、OXPIであるメトホルミンによるミトコンドリア呼吸鎖複合体1に対する阻害効果およびそれに伴うNADHからNADへの変換阻害に着目し検討したところ、メトホルミンの暴露によって細胞内NADが有意に減少することが分かった。また外部からNADを添加することによりメトホルミンによる細胞増殖抑制効果は減少し、細胞内のNAD濃度も回復することも明らかとなった。 また網羅的遺伝子発現解析から、OXPI感受性株におけるAMPK非依存的な細胞増殖抑制の作用機序が細胞周期の進行抑制であることも見出した。メトホルミンの暴露により細胞内のcyclinD1の発現量は減少し、Rbタンパクのリン酸化度合いも減少が見られた。さらにこのメトホルミンによる細胞周期進行に対する抑制は、NAD添加により有意に回復することも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは昨年度に計画したとおり網羅的遺伝子発現解析により、OXPIであるメトホルミンがその感受性株において細胞内のNAD量の変化と細胞周期の進行の抑制を見出し、細胞内のNADが細胞周期の中のG0/G1期における細胞周期制御因子であるcyclinD1やRbの発現量やリン酸化に関与していることを明らかにした。これらの知見はメトホルミンの細胞障害機序として全く新しいものであり、この研究の成果は大きいものと考えられる。またNADは細胞内の様々な分子の活性に関わっているため、この発見をきっかけとしてOXPI感受性細胞の表現型の解析ひいてはOXPI感受性のマーカーとなる分子の同定に繋がることも期待される。 腫瘍細胞の幹細胞性や上皮間葉転換の視点から検討を行うという当初の予定とは異なる方向ではあるが、OXPI感受性細胞におけるメトホルミンによる細胞増殖抑制の作用機序の解明として本研究は順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
NADは多くの分子の働きを調整する因子であり、その標的分子の中にはPARPやSIRTが含まれる。このPARPやSIRTはともに細胞内において損傷遺伝子の修復などに関与していることが知られており、こうした働きは特に幹細胞分画で最も高まると考えられている。 そこで今年度はOXPI感受性細胞におけるOXPIによる細胞増殖抑制や幹細胞性とこれら細胞内NAD依存的分子の働きとの関連についてさらなる解析を進めていく。 具体的にはメトホルミン添加後の細胞内ポリADPリボシル化分子の定量や、PARP、SIRT分子の発現と薬剤感受性との相関、これらの分子を欠損させたときの細胞表現型変化や薬剤感受性変化に関する検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度中より処理・回収を進めているサンプルについて次年度(H27年度)にて一括で解析を進めることとしたため、当該解析費分が次年度使用額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
OXPI感受性細胞におけるOXPIによる細胞増殖抑制と幹細胞性との関連についての評価に使用する予定である。
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