プリオン病は、ウイルスや細菌の感染が原因で起こる脳炎とは異なり、感染時にも炎症はあまり起きないことが特徴の一つとして挙げられてきた。しかし、最近の研究では、感染動物には脳内マクロファージ様細胞であるミクログリアの活性化に伴う炎症が起きていることが明らかになりつつある。また、このミクログリア活性化は病気の進行に伴う付随的変化なのか、それとも発症機構として重要なのかは明らかになっていない。そこで、本研究では、プリオン病発症におけるミクログリア/マクロファージの役割に関して解析を行った。プリオン感染マウス脳の免疫組織化学染色を行ったところ、プリオン病の感染病態である空胞変性および異常型プリオン蛋白質(PrPSc)の蓄積が確認された。として、PrPScの蓄積が強く認められたアストロサイトではiNOS発現が上昇しており、一方、ミクログリアではNOX2の発現の上昇が認められた。また、脳において酸化ストレス障害マーカーの8-OHdGやニトロ化チロシン修飾蛋白質の増加も観察された。さらに、プリオン蛋白質(PrP)遺伝子欠損マクロファージを用いた解析では、貪食能がPrP再発現マクロファージに比べて低下しており、これらの貪食能とPrP発現との関係は、初代培養細胞を用いた解析でも確認された。以上のことから、プリオンの感染病態において、酸化ストレス制御の観点から、ミクログリア/マクロファージにおけるPrP発現は重要な役割を果たしているものと考えられた。
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