研究課題/領域番号 |
25450451
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
林 正信 酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (10130337)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / 肝炎・肝癌 / 銅蓄積 / 銅キレート剤 / LECラット / 放射線感受性 |
研究実績の概要 |
低い線量での放射線による生物影響、特に発癌リスクは社会的に重要な関心が持たれている。放射線の作用は主として酸素ラジカル、活性酸素の産生によって生じるが、低い線量率で長期間継続して放射線を照射することは技術的に困難で、その際の生体反応については明確になっていない。活性酸素は放射線以外に生体内で酸素呼吸などに伴って産生されているが、銅や鉄などの遷移金属との反応でも産生される。本研究は生体内に銅などを蓄積することで長期間に渡って活性酸素に曝されている動物モデルを使用して酸化ストレスによる肝炎・肝癌発症機序を明らかにし、その治療方法を開発することを目的として実施している。 銅蓄積による酸化ストレスによって、急性肝障害、慢性肝炎、肝癌を発症するLECラット肝臓においてはそれぞれの障害の発症時期に多くの遺伝子の発現変化が起こっている。対照のラットとの比較によって、この遺伝子発現の変化は週齢に伴うものではなく、銅の蓄積に伴う酸化ストレスに起因することを示した。銅の蓄積を防止する銅キレート剤の長期投与によって慢性肝炎や肝癌の発症が防止できることが確認された。銅キレート剤の投与によって肝臓や腎臓における銅の取り込みに関与しているCopper transport receptor 1 (Ctr1)遺伝子の発現は影響されず、銅キレート剤によって銅濃度を低下させてもフィードバックはかからないことが示された。ヒト肝癌発症に関わること示されているras/raf/mTORならびにwnt-βカテニンの経路に係る遺伝子発現がLECラット肝臓において比較的早い時期から変化していることが示された。これら遺伝子発現変化に対する銅キレート剤投与の効果については現在解析中であるが、LECラットがヒトと類似した肝癌発症機序を有することが示唆され、これら遺伝子に関する阻害剤が肝癌の発症予防に使用が可能かを検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LECラット肝細胞癌(以下HCC)の発症過程において活性化誘発シチジンデアミナーゼ(以下AID)の発現が増加しており、また、その機序がTGF-βの発現増加であることを示した。AIDの発現はヒトHCC患者でp53遺伝子の変異と相関していることが報告されており、LECラットでのHCC発症においてヒトHCCと同様にAIDの発現増加が寄与していることが示唆された。LECラットに対する銅キレート剤であるトリエンチンの長期投与によって急性肝障害、慢性肝炎、肝癌の発症が防止できることが確認され、現在、各病態における遺伝子発現の変化とトリエンチン投与の影響を解析している。また、銅キレート剤の長期投与による、肝細胞外銅濃度の減少によって肝細胞や腸管における銅輸送タンパク質の発現が増加し、トリエンチンの効果に影響することが考えられたため、肝臓や腎臓における銅輸送タンパク質であるCtr1遺伝子の発現を解析したが、肝臓や腎臓ではCtr1の発現にトリエンチン投与が影響を与えないことを示した。現在、腸管でのCtr1とATP7a遺伝子発現に対するトリエンチン投与の影響を解析している。 このように、銅の蓄積に伴う酸化ストレスによって発症する急性肝障害、肝炎、肝癌の各段階での遺伝子発現変化の解析についてはおおむね予定通りに計画は進行している。低線量領域での放射線高感受性の機序など、低用量酸化ストレスによる修復能など細胞応答の特殊性の解析については現在、計画が少し遅れている。したがって、全体としてはおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
銅の蓄積によって生じる酸化ストレスにより発症する急性肝障害から慢性肝炎を経て肝細胞癌へと移行する過程における遺伝子発現の変化とその病態への寄与の機序を解析するため、銅キレート剤、抗酸化剤、各種阻害剤を投与したラットにおける遺伝子発現の変化について解析し、慢性肝炎・肝癌の治療対象となる標的遺伝子を明らかにする。比較的早い時期で特徴的な遺伝子発現の変化が起こっていることが示されたため、採材の時期を再度検討し直して現在LECラットへの投与を継続している。肝癌の発がん過程に対する種々の薬剤の影響評価は今年度中に得られる予定である。 低線量の放射線で細胞死が高線量を照射した場合よりも感受性が高くなる現象が示されているが、DNA修復経路の一部に異常があり、高い放射線感受性を示すLECラット細胞ではより影響が大きいことが示された。引き続き低線量放射線の影響を検討し、低用量酸化ストレスによる修復能など細胞応答の特殊性を解析するために、引き続きLECラット細胞などDNA修復能の異なる数種類の細胞で低線量領域における放射線応答について解析する。低線量と高線量の放射線を照射し、遺伝子発現の変化の差異をマイクロアレイで解析することで、低線量の放射線応答に対する高線量照射時との差異を解析する。また、低線量放射線と銅蓄積で生じた酸化ストレスに対する変化遺伝子の差異を比較することで、両者の酸化ストレスにおける作用機序の差を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ適切に使用された
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度にほぼ全額を使用している
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