研究課題/領域番号 |
25450453
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
堀 達也 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (80277665)
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研究分担者 |
牛島 仁 日本獣医生命科学大学, 公私立大学の部局等, 教授 (10549562)
小林 正典 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 講師 (80600428)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 犬 / 胚 / 凍結保存 / Cryotop法 / 過排卵誘起処置 / PMSG / GnRH |
研究実績の概要 |
犬は発情周期が6~12か月と長いため、受精卵を回収できる機会が少ない。また、ビーグル犬の排卵数は平均6個前後で、どんなに多くても一度に排卵する卵子の数は8~10個が限界であるため、多くの凍結胚を作成して検討することができない。これらの理由により、実験を進めるために時間がかかる。そのため、多くの胚を生産する方法、すなわち過排卵処置技術の確立が必要である。しかし、犬の過排卵処理に関する報告はほとんどなく、その技術は確立されていない。 そこで今回、発情出血開始後2日目にPMSG 500IU/頭、またはGnRH 1μg/kgの投与を行い、排卵後9~10日目に卵巣子宮摘出術を行い、摘出卵巣から左右の黄体数を数えて過排卵の状況を確認するか、摘出術を行わないものでは排卵後60日に全身麻酔下で開腹手術を行い、卵巣の黄体数から過排卵の状況を推定した。 その結果、PMSG投与後の排卵数は左右の合計が5~23個、平均11.4±2.0個で、GnRH投与後では7~13個、平均9.7±0.8個であった。これら両ホルモン剤の排卵数の間で有意差はみられなかった。これらの実験犬のうち、以前の排卵数がわかっているものについて各種ホルモン剤の投与前後の黄体数を比較したところ、PMSG投与群では左右の排卵数の合計が5~23個、平均12.2±3.0個に対して、処置前の左右の合計排卵数は4~8個、平均6.2±0.7個で、処置後の平均排卵数が有意に増加していることが明らかとなった(p<0.05)。GnRH投与群では、処置後の排卵数は10~13個、平均11.0±0.9個に対して、処置前の左右の合計排卵数は5~8個、平均6.7個で、処置後の排卵数の平均は増加していると思われるが両者の間で有意差はみられなかった。 以上のことから、発情出血開始後2日目のPMSGまたはGnRHの1回投与によって排卵数が増加することが明らかとなった。そして、GnRHよりはPMSGがより過排卵処置として優れていると思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
犬の過排卵処置に関する研究を行い、排卵数を多くするための処置を明らかにすることができたが、その過排卵を行った卵子における受精能などについては確認することができなかった。また、今年はこの処置の研究に時間をかけ、更なるレシピエント犬を増やすことができなかった。また、当初実験計画として予定していた胚の脂肪除去処置についていくつかの胚で検討したが、遠心分離によって脂肪を除去することで胚の形態を維持することができなくなることが明らかとなったため、この方法を犬胚に応用することができないことが明らかとなった。そのため、他の方法にてさらに受胎率を上げるための検討を行う必要があると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
多くの哺乳動物において凍結胚の作成が行われているが、卵巣中の脂質の含量が多い動物では凍結保存により成功率が低くなることが知られている。そのため、例えば豚では、遠心分離によって細胞質内脂肪顆粒を端に寄せ、それを吸引することによって除去してから凍結保存を行うことによって、胚の耐凍性が高まり、融解後の生存率を向上させ、胚移植後に高い受胎率が得られることが知られている。そのため、これを犬に応用しようとしたが、犬胚では遠心分離後に脂肪顆粒を除去すると、胚の卵黄のほとんどが脂肪顆粒であるため胚の形態を維持することができなくなってしまうため、この方法をそのまま応用できないことが明らかとなった。従って、これに代わる凍結融解語の生存性を向上させる方法の検討が必要となった。 そこで注目したのが、現在行っているCryotop法に代わる新しい胚の凍結方法として開発されたCryotec法である。Cryotec法は、人の凍結胚の作成方法として開発された技術で、凍結融解後の生存率が100%に近い画期的な凍結手法である。今年度はこの方法を犬の凍結胚の作成に導入することで、受胎率の向上が得られるかについて検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めるために必要な顕微鏡は既に整っておりますが、効率よく実験を進めるために、新しい実体顕微鏡の購入を今年度において計画しておりました。しかし、研究を進めるに当たって、データを処理しているコンピューターの故障や海外からの実験に必要な試薬の購入の必要性が生じたため、顕微鏡の購入の予定を一時停止しておりました。また、当初、論文の投稿を計画しておりましたが、昨年度中に完成させることができませんでした。そのため、次年度使用額が生じました。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の予算および昨年度の予算と合わせて、今年度において実体顕微鏡の購入を計画しています。また、ここまでの研究成果を学術雑誌へ投稿することを計画しており、英文校閲および論文投稿料として使用する予定です。
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