ヒトでは肥満が原因となり、相対的にインスリン作用が不足する2型糖尿病が主体であり、犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている。そこで、本研究ではインスリン抵抗性に続き糖尿病を発症することが報告されている犬の副腎皮質機能亢進症(HAC)と、インスリン抵抗性が生じるものの糖尿病の発症が報告されていない犬の肥満の違いを比較することで犬における糖尿病発症の特性を解析することを目的とした。 健常な犬では血清中インスリン増加に伴い血清中分岐鎖アミノ酸(BCAA)が低下したが、これはインスリン依存的にBCAAが細胞に取り込まれたことを示している。デキサメサゾンを添加した犬筋管様細胞では、細胞内のBCAAがコントロール群に対して有意に低値であったことから、インスリン抵抗性が高まっていたと示唆される。さらに、デキサメサゾンを添加した犬筋管様細胞では、糖取り込み能が抑制され、糖の異化作用が減少する傾向にあった。糖異化作用の減少は、健常な犬から単離した末梢血単核球にデキサメサゾンを添加した時の代謝産物の解析結果でも示されていた。一方、TNF-αを添加した犬筋管様細胞では、逆にインスリン感受性を増強するβ-アミノイソ酪酸が有意に高値を示し、生じたインスリン抵抗性を代償する作用が働いたと考えられる。また、HAC群と肥満(Obesity)群の血清中代謝産物をControl群と比較したところ、HAC群では、Obesity群と比較してインスリン感受性低下の指標である血清中グルタミンの低下と、糖新生が亢進している傾向が見られた。 以上のように、HACで認められるが肥満では認められない、これらの代謝産物の違いは、犬のHACが糖尿病発症に至る一方、犬の肥満が糖尿病に至らない一因を示しており、犬における糖尿病の発症機序を解明していく上で有用な知見になると考えられる。
|