【はじめに】これまで牛の乳腺と乳汁の副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)の性質を観察してきたが、平成27年度はこれらに加え胎盤におけるPTHrPの機能解析を行った。 【材料と方法】妊娠満期近くのホルスタイン種乳牛の17頭において帝王切開で胎子を娩出する際に、母牛頚静脈、胎子頚静脈、臍静脈、臍動脈を、更には新生子1頭においては継時的に頚静脈より採血し、血液中PTHrP、Ca、P濃度などの測定を行った。また帝王切開時に胎盤節を4頭から採取し胎盤節子宮側と胎子側に分離した。加えて娩出後死亡した胎子1頭から甲状腺、肝臓、腎臓を採材し、リアルタイムRT-PCR法にて各臓器におけるPTHrP遺伝子発現量について検討した。 【結果と考察】血液中濃度測定の結果、胎子循環血液中のCaとPの濃度は母牛より高濃度で、ヒトやマウスと同様であった。血液中PTHrP濃度は母牛頚静脈では全て検出限界以下、胎子頚静脈、臍静脈、臍動脈中濃度では2.5~6.0 pMであり、この三つの血液中濃度に有意な差はみられなかった。また胎盤節子宮側、胎盤節胎子側、胎子臓器のPTHrP遺伝子発現を比較したところ、胎盤節子宮側で最も高い発現量であった。血液中PTHrP濃度に臍動静脈間で差がないことと、胎盤節子宮側での高い遺伝子発現量より,胎子循環血液中PTHrPの主な由来は、胎盤節子宮側であることが示唆された。また新生子PTHrP濃度は出生後3日齢まで胎子期と同濃度に維持されたが、血液中Ca濃度は出生後1日以内で低下した。そのため、胎子期と同濃度の血液中PTHrP濃度は新生子においては、血液中Ca濃度には大きく関与しないことが示唆された。これらの実験により、PTHrPが胎児期から新生児期のミネラル代謝に大きく関与していることが明らかとなり、胎盤由来と乳腺由来では分子や機能が異なることが示唆された。
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