研究課題/領域番号 |
25450460
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
手塚 雅文 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (40311526)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 糖質コルチコイド / 排卵 / 炎症 / 卵丘卵母細胞複合体 / 11bHSD / IVM / IVF |
研究概要 |
本研究では3年間の枠組みで、排卵前後から受精に至るまでのウシ卵丘卵子複合体(COC)における糖質コルチコイド(Glc)の生理的役割とその調節メカニズムを解明することを目的としている。H25年度はCOCにおけるGlcシステムが成熟、受精過程でどのように変化するのか、およびその生理的意義について研究をおこなった。得られた主な結果は以下の通りである。 1.ウシCOCでは局所レベルでGlc濃度を調節する活性型11HSD1と非活性型11HSD2がともに発現しており、活発な酵素活性が認められる。11HSD1は卵丘細胞で発現しておりその活性は成熟の進行とともに増加するが、受精による卵丘細胞層の崩壊とともに低下する。一方11HSD2は卵母細胞で発現しており、成熟、受精を通してその活性はほぼ一定である。 2.COCでGlc受容体の発現が認められたがそのレベルは低く、また高濃度のGlc添加による卵丘細胞層のプロスタグランジン合成酵素などのGlc標的因子発現への影響は見られなかった。一方11HSD2阻害剤の同時添加によって卵母細胞の成熟率が低下する傾向が見られたことから、11HSD2が卵母細胞を過剰なGlcにさらされることから守っている可能性が示唆された。 排卵は感染を伴わない局所的炎症反応であり、浸潤してくる免疫細胞や卵胞組織由来の多くの炎症性、抗炎症性因子が絡む複雑かつダイナミックな現象である。その後に続く受精は本来免疫系のターゲットとなりうる非自己細胞(精子)の炎症部位近傍への侵入によってひきおこされるものであり、近年では自然免疫系の関与が指摘されている。本研究の主役であるGlcは体内で合成される最も強力な抗炎症物質であり、それを調整する2つの酵素が排卵、受精に際して働いていることはGlcシステムが排卵に伴う炎症から卵母細胞や精子を守っている可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書記載の研究スケジュールのうち、H25年度に計画していた課題①「成熟過程のCOCにおけるGlcシステムの役割解明」については次の2点からの検証がおおむね終了し、以下の結論を得た。すなわち、1)成熟過程にあるウシCOC では活性型11HSD1、非活性型11HSD2がともに存在し、成熟の進行に伴い活性型11HSD1の活性が増加すること、および2)非活性型11HSD2は卵母細胞に存在し、卵母細胞がGlcにさらされるのを防いでいること、である。 H25-26年度に計画していた課題②「受精時のCOCにおけるGlcシステムの役割解明」については、受精が卵母細胞の11HSD2活性に影響を与えない一方で、精子の侵入による卵丘細胞層の崩壊が活性型11HSD1の活性を低下させることを明らかにした。 以上、現在のところ当初の計画にほぼ沿う形で本研究は進行している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策:H26年度は予定通り1)受精時のCOCにおけるGlcシステムの役割解明、2)免疫細胞存在下のCOCにおけるGlcシステムの役割解明、および3)免疫細胞存在下で受精するCOCにおけるGlcシステムの役割解明、に取組む。1)については現在進行中のウシCOCにおける自然免疫系関連因子とGlcシステムの相互作用について研究をすすめる。2)についてはCOCにおける免疫細胞の存在を明らかにするとともに、その役割を共培養系を用いて解明する。3)では免疫細胞の存在下における受精がCOCのGlcシステムに与える影響と、Glcがこの複合系に与える影響を明らかにする。 計画を推進する上で解決すべき課題:H26年3月をもって本学のアイソトープセンターが閉鎖され、本研究の主要な手法の一つであったRadioconversion assay が使用できなくなったため、代替法の立ち上げが必要となった。現在386 well plateを用いた微量EIA法による培地中のコルチゾール濃度の測定(11HSD1 reductive activity)の実用性について検討しているところである。
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