研究課題/領域番号 |
25450461
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
渡邊 康一 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (80261494)
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研究分担者 |
麻生 久 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50241625)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 骨格筋 / ウシ / 筋線維型 / 超疲労耐久性筋線維 / ID型筋線維 / 機能適応 / 3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素 |
研究実績の概要 |
本年度は筋小胞体からカルシウムイオンを放出するリアノジンレセプター(RyR)の発現も加え、免疫染色強度の画像解析を行った。ID型筋線維はIC型筋線維に比べ、①SERCA2発現が有意に低いこと、②RyR発現が有意に低いこと、③MICU1に発現が有意に高いこと、の3点を見出した。反芻動物の抗重力筋に分布するI型筋線維は、姿勢保持のため常時反射的な筋運動を行っており、I型筋線維の分布は骨格筋の中でも体重を支えるのに適した部位に局在している。筋収縮はカルシウムイオンをトリガーとしていることから、ID型筋線維では持続的に筋収縮を行えるよう細胞内のカルシウムレベルが高く維持されていること、すなわちSERCA2の発現が下がり、RyRの要求性も減少するという機能的適応が生じたと考えられる。一方、高レベルのカルシウムイオンからミトコンドリアを守るため、MICU1が発現上昇していると考えられる。 また、筋線維型移行キーファクター候補について、PGC-1α、SIRT1およびSIRT3の遺伝子発現を中間広筋、腹鋸筋、半腱様筋、最長筋においてリアルタイムPCRによって解析した。PGC-1αとSIRT3は筋間で有意な差異は認められなかった。一方、SIRT1はⅡ型筋線維の多い筋で高く、Ⅰ型筋線維の多い筋で低いという結果が得られた。さらに、30日間の持続的低周波電気刺激(CLSF)を行なった最長筋では、PGC-1αとSIRT1の発現に変化は見られなかったが、SIRT3に発現上昇が認められた。SIRT1は筋線維が嫌気的代謝から好気的代謝に移行する際に発現上昇し、PGC-1αを活性化させることを示唆する。ウシ最長筋へのCLFSでは、30日間の刺激ではⅠ型筋線維への誘導よりもIIB型からIIA型筋線維への誘導が主となっていたため、CLFSによるSIRT1の発現変動が認められなかった可能性があり、一方でミトコンドリアの増生に呼応してSIRT3の発現が上昇したものと考えらえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
哺乳類の骨格筋線維のI型筋線維にサブタイプが存在することは約40年前に発見されたことだが(Suzuki, 1974)、機能の違いについては全く明らかにされていなかった。本研究では、I型筋線維サブタイプについて免疫組織化学的に解析し、ID型筋線維はIC型筋線維に比べ、①筋小胞体の遅筋型カルシウムイオンポンプのSERCA2発現が低いこと、②筋小胞体のカルシウムイオン放出チャンネルのRyR発現が低いこと、③ミトコンドリアカルシウムイオンチャネル抑制因子のMICU1に発現が高いこと、の3点を見出した。ID型筋線維では持続的に筋収縮を行えるよう細胞内のカルシウムイオンレベルが高く維持されていると考えられ、それに適応したカルシウムイオン調節機構が惹起されたと考えられる。 また、PGC-1α、SIRT1およびSIRT3の発現動態を解析し、PGC-1αとSIRT1はミトコンドリア増生に関与し、筋線維の好気的代謝能を亢進させる(赤色筋化)役目を果たすことが示唆され、SIRT3はミトコンドリアの増生に呼応して発現上昇すると考えらえる。SIRT系を介した筋線維型解析は反芻動物では世界初の試みであり、筋線維型決定機構の解明の端緒に付く知見となった。
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今後の研究の推進方策 |
SIRT3はミトコンドリアのケトン代謝に関与し、ID型筋線維の最大の特徴である3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素はケトン代謝に関わる酵素である。酵素組織化学的染色理論からは、3-HBD活性が向上したID型筋線維は脂肪代謝能が高いと見なされているが、筋線維内に微細な脂肪滴を貯蔵すること以外に検証されたことは無い。ID型筋線維において、ミトコンドリアにおける脂肪酸代謝の亢進が生じているかどうか、ミトコンドリア内に脂肪酸を輸送するCPT-I(カルニチンアシル基転移酵素)等の脂肪酸代謝関連因子の発現を解析する。
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備考 |
第119回日本畜産学会大会と第64回東北畜産学会大会において、本研究課題の成果を報告した筆頭発表者が優秀発表賞を受賞した。
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