研究課題/領域番号 |
25450469
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 宮城大学 |
研究代表者 |
森本 素子 宮城大学, 食産業学部, 教授 (30250301)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 樹状細胞 / 線虫 / Th2 / サイトカイン |
研究概要 |
消化管内寄生虫であるHeligmosomoides polygyrus(Hp)がマウスに感染するとT細胞はTh2細胞へと分化し、Interleukin(IL)-4やIL-13などの2型サイトカインの増大によってHpの排除が起こる。本研究では、この2型免疫応答の初期ステージに関わる細胞の働きを明らかにすることを目的とし、平成25年度は樹状細胞の働きに着目した。樹状細胞は侵入した病原体を補足し、抗原提示によって適切な免疫応答を開始するに必須の細胞である。しかしPaired immunoglobulin-like receptor(PIR)-Bをノックアウトしたマウスでは樹状細胞の成熟が阻害される。PIR-BはPIR-Aと対を成して免疫細胞上に存在する受容体の一つであり、PIR-Bを欠損したマウスでは未熟な樹状細胞により炎症性サイトカインであるIL-12が十分に産生されず、免疫応答がTh2型へと偏ることが報告されている。 Hpの初感染7日目に、小腸におけるサイトカイン遺伝子の発現を解析しところ、2型サイトカインであるIL-4、IL-13、IL-10にPIR-B-/-マウスとPIR-B+/+マウスに有意な差はなく、Th1サイトカインであるIFN-γ、IL-6についても同様であった。また、シスト周辺に集積する免疫担当細胞(好中球、CD4+T細胞、樹状細胞)にも差は見られなかった。次に、Hpをいったん駆虫し、再感染させた後、IL-4、IL-13、IL-10の発現を調べたところ、IL-4およびIL-10は4日目でピークを迎え、7日目では発現が低くなっていたが、PIR-B-/-マウス、PIR-B+/+マウス間に有意な差は見られず、他の1型サイトカインについても同様であった。 以上のことから、樹状細胞が未成熟な状態であっても、Hpの初感染および再感染後に誘導される2型免疫応答は阻害されないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
免疫恒常性の維持に重要であるとされるペア型イムノグロブリン様受容体(PIR)のうち、抑制機能を持つPIR-B欠損マウスは樹状細胞(DC)の成熟不全によりTh2型応答が亢進する(Ujike A. et al Nat Immunol. 2002)。PIRはマクロファージの分化にも関与するため、炎症コントロールにも重要な因子であると考えられるが、その存在が適切なTh2誘導に不可欠であるかどうかは不明であった。そこで、本研究では小腸粘膜~腸管リンパ節におけるDCの役割と感染局所へのmigrationについて検討するため、PIR-B欠損マウスを用いてHpに対する応答を調べたが、PIR-B欠損マウスにおいても正常な2型免疫応答が誘導され、樹状細胞の未成熟による影響はほとんど見られないことが確認された。以上のように、当初計画通り、2型免疫応答開始における樹状細胞のはたらきについて確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の結果により、樹状細胞の関与が大きくないことが分かったので、続いて小腸上皮細胞の関与について解析する予定である。IL-4およびIL-13のレセプターは小腸の上皮にも存在する(Morimoto M. et.al. J. Immunol. 2006)。杯細胞の過形成や感染に伴う上皮透過性の変化は、これらの2型サイトカインがレセプターを介して誘導すると考えられる。一方、線虫の侵入を一番に察知するのは上皮細胞であり、上皮からのIL-33の分泌がNatural helper (NH)細胞をはじめとする自然免疫細胞へ最初のシグナルと考えられるため、上皮細胞はセンサーおよびエフェクターとしての役割を併せ持つ重要な細胞であると考えられる。そこで、Laser Capture Microdissection(LCM)法を用いてHp感染後から経時的に上皮を採取し、サイトカイン産生・粘液産生、透過性の変化について時間的変化をとらえて、腸管上皮細胞の免疫生理学的役割について明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究補助者を雇用する予定であったが、適当な人材が見つからなかった。震災後被災地では人手不足は深刻で、パートタイム労働者の時給も高騰傾向であるためと考えている。したがって本研究は学部生の卒業研究の一部として実施したため、人件費が予定より少なくなり、次年度使用額が生じた。 平成26年度は適当な研究補助者が雇用できたので、人件費にあてる。
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