研究課題/領域番号 |
25450486
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三浦 健 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (60219582)
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研究分担者 |
水口 智江可 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (90509134)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 自然免疫 / 昆虫 / コクヌストモドキ / 液性免疫 |
研究概要 |
昆虫に微生物が感染するとさまざまな免疫応答が起こるが、このうち微生物を殺す活性をもつ抗微生物ペプチド(AMP)の脂肪体(昆虫の肝臓の相同器官)での産生応答機構については、ショウジョウバエでの膨大な研究があり、グラム陽性菌と真菌が感染した場合にはToll経路、グラム陰性菌感染ではIMD経路と呼ばれる免疫経路が特異性を持って活性化され、それぞれの経路の末端に位置するAMP遺伝子のセットが活性化されることが知られている。我々はショウジョウバエモデルとは別の昆虫種の液性免疫応答経路のリファレンスを提供することをひとつの目的として、全ゲノム配列が明らかでありRNA干渉法に適した貯穀害虫・コクヌストモドキを用いて研究を行っている。 我々は既にコクヌストモドキではショウジョウバエとは異なり、上記の二つの免疫経路の感染微生物種に特異的な活性化が起こらないことを明らかにしていたので、平成25年度はこの現象の分子的背景を探るために二つの経路で細胞内へ感染シグナルの入力を行う膜タンパク質に着目し、IMD経路ではペプチドグリカン認識タンパク質(PGRP)遺伝子群、Toll経路ではToll受容体遺伝子群をノックダウンし、AMP産生応答への影響を調べた。 詳細な検討の結果、まずコクヌストモドキのIMD経路ではショウジョウバエとは違ったPGRPバリアントが中心的なレセプターとして機能し、様々な微生物種の感染シグナルを伝えることが分かった。Toll経路についても同様であり、ショウジョウバエとは異なった分子種が中心的なレセプターであり、同じく多くの微生物種の感染に応答することが示され、コクヌストモドキの特徴である感染微生物種に対する特異性の低い免疫経路の活性化の背景になっていることが強く示唆された。これらはいずれも新規な知見であり、学術的価値も高いと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度には、まず上の項に記した通り、複数の新しい知見を得ている。また当初の計画にはなかったが、Toll受容体のリガンドであるspaetzleというサイトカインの遺伝子群についても詳細な解析を行って、こちらも1)ショウジョウバエとは異なる分子種が機能していること、さらに2)spaetzleに依存しないTollへの入力経路の存在を示唆するデータを得ている。さらに平成26年度の研究計画として挙げたノックダウン昆虫を用いた病原微生物種感染実験や細胞内のシグナリングに関与するFADD やDREDD遺伝子に関する研究も前倒しで行い、それぞれ興味深い知見を得ている。一方、当初計画にあったNFκBファミリー転写因子についての研究は開始が遅れている。そこで達成度についてはこれらの差引を勘案し、「おおむね順調に進展している」とした次第である。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、本研究課題は遅れている部分もあるものの、概ね当初の研究計画をを先取りする形で順調に推移しており、コクヌストモドキの液性免疫応答の特徴である、感染微生物種に対する特異性の低い二つの免疫経路の活性化の分子機構についてもより詳細な解析の対象となる分子が明確に同定できた。これらについては今後も計画通りの解析を進めていく予定である。 また、平成25年度の研究結果から示唆された「サイトカイン・spaetzleに依存しないToll経路の活性化」という現象は、経路活性化の微生物種特異性の違いと共にショウジョウバエモデルと対比した場合のコクヌストモドキの系の際立った特徴であり、哺乳類のToll-likeレセプターの機能にも通じるたいへん興味深いものである。従って今後は、転写因子の解析に配分するリソースをある程度削ってでもこの現象の分子的基盤についても明らかにしていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
人件費・謝金が当初予定したよりも大きな額となることが年度途中で明らかとなったため、物品費として支出予定であったものをある程度温存して物品の購入には別系統の予算をかなり利用した。年度末の調整をある程度行ったものの、当該の次年度使用額が発生することとなった。 当該の次年度使用額については主に物品費として使用する予定である。
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