研究課題/領域番号 |
25450488
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
後藤 慎介 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70347483)
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研究分担者 |
志賀 向子 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90254383)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 昆虫 / 生活史 / 概日時計 / Clock / RNAi / 卵休眠 / 光周性 |
研究概要 |
「母親が受けた光周期によって次世代の発生運命が変化する」という現象は多くの昆虫に見られるにもかかわらず,その分子基盤はいまだ不明である.本研究は,この「昆虫の光周性における母性効果のしくみ」を,主にマダラスズを対象として明らかにすることを目的とする. 光周性における光周期の読み取りには概日時計が関与することが知られている.しかしこの概日時計がどのような分子機構からなるのかについては不明な点が多い.一方,昆虫の歩行活動リズムを司る概日時計については研究が進んでおり,いくつかの「時計遺伝子」によって時計が構成されていることが知られている.そこで今年度は「時計遺伝子からなる概日時計が光周性における光周期の読み取りに関与するのか」を明らかにするため,概日時計の分子機構の中でも特に重要と考えられるClock遺伝子のRNAiを行った. マダラスズClock RNAi個体の恒暗条件下,明暗条件下での歩行活動リズムの解析,さらに暗期の到来を予期した活動が見られるかどうかを指数化した解析により,Clock RNAiでは,明暗条件下においても概日時計に以上が見られることがわかった. このRNAi個体における光周性を調べたところ,光周期によって特徴的な産卵パターンを示すことがわかった.この産卵パターンの解析から,Clockは2つの役割,すなわち,母親の脳内の概日時計を構成して光周期の読み取りに関わる役割,そして,卵巣あるいは卵において休眠そのものを誘導する役割,を担うと考えられた. このように母性効果における時計遺伝子の役割の一端が明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光周性機構は大きく(1)光を受容する「光受容」,(2)光情報をもとに明るい時間暗い時間の長さを計測し,その結果を蓄積する「光周時計」,(3)光周時計の結果を最終的な休眠/非休眠あるいは翅型などに変換する「出力系」からなると考えられている.本年度の実験により,時計遺伝子Clockは2つの役割,すなわち(a)母親の脳において概日時計を構成する役割,(b)光周時計よりも「下流」の休眠を直接調節する役割,を果たしていることが明らかとなった.このaは上記の(2)の過程に,bは(3)の過程に相当すると考えられる. これまで,時計遺伝子が光周性のどの機構に関わるのかについて,いくつかの昆虫での結果をもとに,激しい議論がなされてきた.たとえばホソヘリカメムシでは,時計遺伝子は概日時計を構成することによって「光周時計」に関わると考えられてきた.一方で,ホソヘリカメムシと近縁なホシカメムシの一種Pyrrhocoris apterusでは,時計遺伝子は時計とは無関係に「出力系」に関わると考えられている.今回のマダラスズの結果において,Clockが時計を構成して出力系に関わるのか,あるいは時計とは無関係な働きによって出力系に関わるのかはわからない.しかし,マダラスズにおいては,光周時計と出力系,その両方にClock遺伝子が関わるようだ.これまでは光周時計に関わるのか,出力系に関わるのか,という二者択一での議論がなされてきたが,マダラスズの結果はその両方が起こりうることを示しており,新奇の発見である.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,虫全体から抽出したRNAを用い,RNAseqを行うことにで,網羅的に遺伝子情報を得る.特に複数の概日時計遺伝子,またその関連遺伝子の情報を得る.複数の概日時計遺伝子のRNAiを行い,どの時計遺伝子のRNAiでも光周性に同様の影響を及ぼすのか,異なる影響を及ぼすのかについて検討する.これにより,時計遺伝子が時計を構成することで光周性に関わるのか,あるいは時計とは全く無関係に光周性に関わるのかについて明らかにすることができる. また,胚の細胞周期解析を行う.これまでの研究より,マダラスズの休眠は,発生のかなり早い段階である細胞性胞胚で起こることが知られている.しかしながら,他の昆虫のように細胞分裂が完全に停止しているわけではなく,非常にゆっくりと細胞分裂が継続していることが示唆されている.今年度は,産下後の日齢を追って卵を回収し,フローサイトメーターを用いて,休眠卵の細胞分裂について詳細に明らかにする.細胞周期特異的な抗体を用いることで,それぞれの細胞周期の割合の計測についても検討する.また細胞分裂の頻度やS期の時間を計測するためにBrdUやEdUを併用する. 昨年からの持ち越しとなっている卵のRNAseqも行う(後述).
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次年度の研究費の使用計画 |
野外から採集したマダラスズの次世代(G1世代)から,卵を産まなくなるという病気が発生した.そのため卵の回収に事欠き,RNAseqを行うことが出来なかった.どのような病気かは不明だが,今年度は飼育装置の殺菌消毒を行い,複数の箇所(全く異なる建物)で飼育を行うことで病気の発生を抑えることにする.また,現段階では野外採集個体には問題はなさそうなので,野外から幼虫を採集し,その幼虫から羽化した成虫(G0世代)で実験を行うことも検討する. 持ち越した金額をそのまま用いて卵巣のRNAを用いたRNAseqを行う.
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