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2014 年度 実施状況報告書

昆虫の光周性における母性効果の分子基盤

研究課題

研究課題/領域番号 25450488
研究機関大阪市立大学

研究代表者

後藤 慎介  大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (70347483)

研究分担者 志賀 向子  大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (90254383)
研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2016-03-31
キーワード昆虫 / 光周性 / 生活史 / 概日時計 / 細胞周期 / RNAi / 卵休眠 / RNA-seq
研究実績の概要

「母親が受けた光周期によって次世代の発生運命が変化する」という現象は多くの昆虫に見られるにもかかわらず,その分子基盤はいまだ不明である.本研究はこの「昆虫の光周性における母性効果のしくみ」を明らかにすることを目的とする.
本年はマダラスズを対象に実験を行った.まず,母親が受けた短日情報が最終的に卵の発生にどのように影響を及ぼすのかに着目した.卵が産下されてから経時的にサンプリングを行い,休眠予定卵,休眠に入った卵,非休眠予定卵,発生を継続している卵(非休眠卵)の細胞における細胞周期をフローサイトメーターで調べた.その結果,休眠卵の細胞はG0/G1期で分裂を停止することが明らかになった.また,見かけ上発生停止が起こっている休眠卵でもしばらくはG0/G1期,G2期の割合が変動することが明らかになった.すなわち,発生の停止と細胞分裂の停止は異なるしくみで制御されていると考えられた.また,休眠卵において約5%ほどの核がS期様のシグナル強度を示したが,卵の核の数の概数をフローサイトメーターで調べたところ,核の数の増加は見られなかった.よって,休眠卵はG0/G1期において,細胞分裂を完全に停止していると考えられる.また,昨年に引き続き,概日時計遺伝子が光周性に果たす役割を調べるため,概日時計遺伝子periodの二本鎖RNAの注射を行った.メス成虫の概日歩行活動リズムに異常が見られたことから,period RNAiが有効であると考えられる.今後,このRNAiが日長の測定にどのように影響するかを調べていく.さらに,長日条件で非休眠卵を,短日条件で休眠卵を産下しているメス成虫から卵巣を取り出し,RNA-seq解析を行った.解析途中であるため詳細は避けるが,長日特異的あるいは短日特異的な発現を行う遺伝子が幾つか候補として挙げられている.
このように母性効果における時計遺伝子の役割の一端が明らかになった.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

光周性における母性効果には大きく,母親で働く(1)光を受容する「光受容」,(2)光情報をもとに明るい時間暗い時間の長さを計測し,その結果を蓄積する「光周時計」,(3)光周時計の結果を内分泌系に変換する「出力系」,さらに,卵で,母親から受け取った情報を休眠へと結びつける「発現系」からなると考えられる.(1)については,これまでの研究により複眼が関与することがわかっている.
本研究課題の成果により,マダラスズの光周性において,(2)に概日時計が関わること,(4)には発生停止の制御機構と細胞分裂の制御機構が関わることが明らかになった.特に,発生が停止している卵でも細胞分裂が行われるという知見は新しい.また,卵巣におけるRNA-seq解析により(2)と(4)を結ぶしくみに関しても今後明らかにできると考える.

今後の研究の推進方策

平成27年度は最終年度であるため,個々に得られた成果を一つにつなげるような戦略で研究を進める.

まず,概日時計遺伝子periodのRNAiが概日歩行活動に及ぼす影響に関して観察数を増やすとともに,本RNAiが光周性に及ぼす影響を調べる.これまでのClock RNAiの結果,そしてperiod RNAiの結果により,光周性に概日時計が関わることを明瞭に示す.また,概日時計を用いて測定した日長情報が卵巣にどのような影響を及ぼすのかを調べるため,RNA-seq解析を進める.候補遺伝子が明らかとなった際には短日,長日条件下での発現を調べるとともに,RNAiによって発現抑制を行い,休眠への影響を調べる.
卵巣を通して与えられた日長情報は最終的に胚発生の停止と細胞分裂の停止を引き起こす.胚発生が具体的にいつどのように停止するのかを,核を染色するDAPIを用いて明らかにする.またこの発生の停止には胚性遺伝子の転写抑制が関係しているという仮説を考え,胚性遺伝子(snailやrunt, armadillo)の発現を調べる.また,細胞分裂の停止がどのようなカスケードで引き起こされるのかを調べるため,核内増殖抗原(PCNA)やMAPKの一種であるp38, Erkの発現をウェスタンブロッティングを用いて調べる.
これにより「昆虫の光周性における母性効果のしくみ」を明らかにする.

次年度使用額が生じた理由

消耗品にかかる費用が圧縮できたため,約1万円の未使用額が生じた.

次年度使用額の使用計画

研究の遂行に伴い,酵素などの購入によりすみやかに使用する.

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2015 2014

すべて 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 図書 (2件)

  • [学会発表] 時計遺伝子periodのRNAiがキョウソヤドリコバチの光周性に及ぼす影響2015

    • 著者名/発表者名
      向井歩,後藤慎介
    • 学会等名
      第59回日本応用動物昆虫学会
    • 発表場所
      山形大学(山形県・山形市)
    • 年月日
      2015-03-26 – 2015-03-28
  • [学会発表] マダラスズ休眠卵の細胞周期の解析2014

    • 著者名/発表者名
      清水悠太,後藤慎介
    • 学会等名
      第85回日本動物学会大会
    • 発表場所
      東北大学(宮城県・仙台市)
    • 年月日
      2014-09-11 – 2014-09-13
  • [学会発表] キョウソヤドリコバチの光周性を制御する概日時計遺伝子period2014

    • 著者名/発表者名
      向井歩,志賀向子,後藤慎介
    • 学会等名
      第18回日本光生物学協会年会
    • 発表場所
      大阪市立大学(大阪府・大阪市)
    • 年月日
      2014-07-31 – 2014-08-01
  • [学会発表] Roles of the circadian clock genes in photoperiodic regulation of diapause in the bean bug.2014

    • 著者名/発表者名
      Goto, S.G., Shiga, S., Numata, H.
    • 学会等名
      FIRST FAO/IAEA RESEARCH COORDINATION MEETING ON Dormancy Management to Enable Mass-rearing and Increase Efficacy of Sterile Insects and Natural Enemies,
    • 発表場所
      Vienna (Austria)
    • 年月日
      2014-07-21 – 2014-07-25
    • 招待講演
  • [図書] 昆虫の時計-分子から野外まで-:第6章「光周性」2014

    • 著者名/発表者名
      後藤慎介 (沼田英治 編)
    • 総ページ数
      245
    • 出版者
      北隆館
  • [図書] Insect Molecular Biology and Ecology: 「Insect Photoperiodism」2014

    • 著者名/発表者名
      Goto, S.G., Numata, H.
    • 総ページ数
      428
    • 出版者
      CRC Press

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公開日: 2016-05-27  

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