研究課題/領域番号 |
25450489
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
澤田 博司 日本大学, 文理学部, 教授 (60196326)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カイコガ / 休眠 / 浸酸処理 / カルシウム / DMSO処理 / 休眠移行阻害 |
研究実績の概要 |
高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)とポストイオンクロマトグラフィー装置(IC)で,酸処理前後で卵殻と卵内のCa2+を定量したところ,浸酸処理を施した休眠卵では浸酸処理を行っていな卵と比べて、卵殻と卵内のCa2+量はおよそ1/10に減少していた。また,浸酸処理に用いた溶液のCa2+量も測定し,水で同様に処理したものと比較した結果,浸酸処理後の溶液中のCa2+量が増加していた。これらの測定時には同時にMg2+の定量も実施したが変化は無かった。更に,DMSO処理卵についても同様にCa2+量も測定した結果,処理前と処理後ともCa2+量の変化は認められなかった。これらの結果は,以前の結果と同様であり再現性があることが確認された。 今回は,更にHCl処理による休眠打破効果が無い時期の休眠卵(産卵後17日経過した休眠卵)を浸酸処理した後の卵殻と卵内のCa2+量も測定した。その結果,Ca2+量はおよそ1/7に減少していた。 一方,カイコのミトコンドリアCa2+依存性溶質輸送体タンパク質(Bm-MSLC)をコードするcDNAをクローニングし,その塩基配列を解析した。その結果,ORFは667アミノ酸をコードしており,分子内にCa2+の結合領域であるEF-ハンドモチーフが確認された。また,ミトコンドリア溶質輸送体タンパク質のスーパーファミリーに属するタンパク質に共通な「signature motif」が分子内に3カ所に確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カイコ休眠卵を塩酸処理で休眠を回避させる処理において,卵殻卵内ともCa2+量は減少していた。Mg2+に関しては変化がなかったので,これはCa2+特異的と考えられ再現性も確認されたことから,新知見となった。この現象の考察であるが,現時点では,卵殻や卵内の沈着結合型のCaがCa2+となり流出する際の卵内でのCa2+流動が,Ca2+シグナリング分子を活性化させるために重要な役割を持つ可能性が高いと考えている。ここまでの段階で本研究目的の半分は達成できたと考えている。 また,DMSO処理でのCa2+量には変化が確認できなかった事,及びHCl処理で休眠回避が不可能な時期の休眠卵(産卵後17日経過した休眠卵)をHCl処理した卵ではCa2+量はおよそ1/7に減少していた事等は,解析が進み新たに明らかになった結果である。これらの結果を考慮すると,HCl処理における 卵からのCa2+量の減少は,一見休眠移行阻害には直接的には関与していないように思われる。しかし,休眠卵の産卵後24時間まで,すなわち浸酸処理が有効に働く時期におけるHCl処理によるCa2+の流出が,休眠移行阻害に影響を及ぼしている可能性は否定できない。従って,Ca2+と相互作用するミトコンドリアCa2+依存性溶質輸送体タンパク質(SMLC)を始めとした各種分子の詳細な解析を開始した。その結果,カイコのSMLCがクローニングできその性質の一部を明らかにできた。この結果から,現時点では本研究の目的の2/3は達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
カイコのミトコンドリアCa2+依存性溶質輸送体タンパク質(Bm-MSLC)をコードするcDNAが取得できたので,まずは,その配列からプライマーを調製し,遺伝子発現の変動を,休眠卵,塩酸処理休眠卵,DMSO処理休眠卵等から抽出したmRNAを用いてRT―PCRにて詳細に解析を行う。同時にBm-MSLC cDNAを用いてタンパク質発現用プラスミドベクターを構築し,大腸菌を形質転換しリコンビナントBm-MSLC(rBm-MSLC)の発現と精製を試みる。その後,EF-ハンドモチーフなどが機能するのかどうか,精製したrBm-MSLCを用いてカルシウム結合能などの機能解析実験を行う。また,rBm-MSLCに対するポリークローナル抗体を作成し,その抗体を用いてカイコ卵の切片で免疫組織化学を行いBm-MSLCの卵内での分布と局在について詳細に解析し,休眠時と休眠回避時のBm-MSLCの局在の変動等を明らかにしたい。以上の研究結果より休眠期と休眠移行阻害時のCa2+の役割の一部を明らかにする。
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