ヤママユガ幼虫において、口器に水滴を与えて飲み込み速度を解析する方法を用いて、味覚刺激による摂食行動の影響を調べた結果、ショ糖、イノシトール、果糖は飲み込み行動を誘発したが、ストリキニーネは抑制的に作用した。ショ糖とイノシトールを受容する味覚細胞は小腮に存在し、果糖とストリキニーネに応答する細胞が上咽頭に存在することから、少なくとも飲み込み行動においては、味覚刺激の種類によって異なる反応があり、味覚細胞の存在場所による違いはないことが分かった。 カイコ5齢幼虫に生体アミンの関連試薬を注射した後の人工飼料の摂食量、排糞量、摂食行動リズム等の解析を行ったところ、オクトパミンによる摂食量の亢進、セロトニンによる抑制があり、チラミンとドーパミンでは変化がなかった。ドーパミン受容体のアンタゴニストに摂食抑制作用があり、D2-likeドーパミン受容体のアゴニストであるブロモクリプチンを注射すると、高い摂食亢進と排糞が認められた。 以上のことから、鱗翅目昆虫幼虫の摂食行動制御に、味覚と生体アミンの情報が重要な役割をしていることが分かる。D2-likeドーパミン受容体を介した摂食亢進と味覚との接点を明らかにするために、広食性カイコ(あさぎり等)を用いたショ糖飼料での行動実験を行った結果、ブロモクリプチンは摂食刺激物質であるショ糖の味覚シグナルを中枢又は末梢で制御することで、カイコの摂食量を向上させていることが分かった。すなわち、カイコの体内には、D2-likeドーパミン受容体を介したショ糖シグナルの調節とそれに伴う摂食制御機構が存在することが明らかになった。
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