研究課題/領域番号 |
25450493
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
後藤 洋子 独立行政法人農業生物資源研究所, 新機能素材研究開発ユニット, 上級研究員 (00391574)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 絹タンパク質 / 細胞培養基材 / 血管内皮細胞 / 化学修飾 / 糖鎖 |
研究実績の概要 |
絹タンパク質由来の組織再生用材料として血管内皮細胞培養基材を開発することを目的に、これまでに血管内皮細胞が認識・結合すると考えられる糖鎖を化学修飾した絹フィブロインの合成を行ない、分光分析から絹フィブロインへの目的糖鎖の修飾・導入を確認した。 本年度は最初に絹フィブロインに導入した糖鎖の細胞認識部位としての機能発現性を事前検証するため、細胞の代わりに糖鎖認識タンパク質レクチンを用いて糖鎖修飾絹フィブロインに対する結合・凝集反応を行なった。紫外可視分光光度計を用いた測定でレクチン添加による糖鎖修飾絹フィブロイン水溶液の濁度上昇と、それに続く合成原料のオリゴ糖の添加による水溶液の濁度減少が観測され、導入糖鎖がレクチンの認識部位として機能し細胞の認識部位になりうることが示された。 次に糖鎖修飾絹フィブロインを用いた細胞培養基材の作製を行ない、基材に対する血管内皮細胞モデルの接着性を評価した。培養基材の作製は、組織培養用マイクロプレートのウエルに修飾絹フィブロイン水溶液を添加し静置することによってウエル表面に修飾絹フィブロインを吸着コートさせて行なった。同じ方法で比較対照用に未修飾の絹フィブロインを吸着コートしたウエルを作製した。ウエルへの試料コートは、タンパク質染色剤CBBによる染色によって確認した。作製した試料コートウエルにヒト臍帯静脈内皮細胞(Huvec)を播種し、無血清条件下で2時間培養した。培養後の各ウエルにおける接着細胞数の評価を、細胞数とミトコンドリア脱水素酵素活性が比例することを利用し、水溶性テトラゾリウム塩(WST)を発色試薬に用いたWST法によって実施したところ、糖鎖修飾絹フィブロインと絹フィブロインにおける接着細胞数に差は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の実験では糖鎖修飾絹フィブロインにおける細胞接着性の増加は認められなかったが、細胞培養基材の作製と接着細胞数評価の方法を確立したので、次年度中に培養条件を変えた細胞接着性の再評価と細胞増殖性の評価は完了できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
生体内の環境に近く細胞接着が促進される血清が存在する条件下の糖鎖修飾絹フィブロインに対する血管内皮細胞モデルの接着性を調べるため、糖鎖修飾絹フィブロインと比較対照試料の絹フィブロインをコートしたマイクロプレートのウエルにHuvecを播種し、ウシ胎児血清を含む培地で2時間培養を行った後の各ウエルにおける細胞数と細胞形態を調べる。 一方、細胞を長時間培養すると細胞分裂による細胞増殖・細胞数増加が起こる。糖鎖修飾絹フィブロインにおける血管内皮細胞モデルの増殖性を調べるため、修飾絹フィブロインと絹フィブロインをコートしたウエルにおいてHuvecをウシ胎児血清を含む培地中で3日間培養し、3日後の各ウエルにおける細胞数と細胞形態を調べる。 なお、細胞数の評価はこれまでと同様WST法によって実施し、細胞形態の評価は顕微鏡観察によって行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は原料試薬の購入を必要とする糖鎖修飾絹フィブロインの合成は行なわず、前年度合成した糖鎖修飾絹フィブロインを活用して実験を行ったため、主に消耗品費に残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
糖鎖修飾絹フィブロインの合成に必要な原料のオリゴ糖などの試薬や、細胞培養基材の作製に用いるプラスチック器具の購入に充てる他に、受託試験による細胞培養実験実施のための役務費に充てる予定である。
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