当該研究は絹タンパク質由来の組織再生用材料として血管内皮細胞培養用足場基材を開発することを目的としているため、昨年度までに血管内皮細胞が認識・結合すると考えられる糖鎖を化学修飾した絹フィブロインを作製し、糖鎖修飾絹フィブロインを足場基材に用いてヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の無血清培養を行ったが、細胞接着における糖鎖修飾の影響は認められなかった。そこで本年度は、生体環境に近い血清添加培地中でHUVECの培養を行い、絹フィブロインへの糖鎖修飾による細胞の接着と増殖の変化を調べた。 培養2時間後の糖鎖修飾絹フィブロインと絹フィブロインにおける接着細胞数をWST-8アッセイにより評価したところ、糖鎖修飾絹フィブロインにおいては絹フィブロインより有意に高い接着細胞数を示した。接着細胞の形態を顕微鏡観察したところ、修飾絹フィブロイン上の細胞は伸展していたのに対し、絹フィブロイン上では球状で接着が抑制されていることが示唆された。一方、培養3日後の各基材において増殖した細胞数をWST-8アッセイで評価したところ、修飾絹フィブロインは絹フィブロインより有意に高い増殖細胞数を示した。増殖細胞の形態については修飾絹フィブロイン上と絹フィブロイン上において差がなく、伸展形態を示した。なお、細胞接着だけでなく細胞増殖においても差が認められたことから、細胞増殖に関わる細胞外マトリックスタンパク質の検出を試みたが、検出はできなかった。 以上の結果から、絹フィブロインに糖鎖を修飾導入することによって血管内皮細胞の接着性と増殖性が向上し、血管内皮細胞の培養足場基材として適するように改変されたと考えられる。現在、糖鎖導入が血管内皮細胞以外の細胞の接着にも有効か検証を進めている。
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