本研究課題は、階級分化、社会行動、齢差分業といった興味深い現象を示すさまざまな社会性アブラムシを対象に、次世代シーケンサーを利用したRNAseq解析をおこない、アブラムシ類における社会機構の至近メカニズムを網羅的かつ包括的に探るとともに、進化起源の異なる兵隊間でのトランスクリプトームの比較から、兵隊がいくつもの系統で独立に複数回進化してきたアブラムシ類における社会性の進化を遺伝子レベルで解明することを目的とする。 今年度は、昨年度までに同定されたササコナフキツノアブラムシのゴール世代兵隊で発現亢進するカルパイン遺伝子に関する詳細な解析をおこなった。定量RT-PCR解析の結果、兵隊におけるカルパイン遺伝子の発現は普通幼虫に比べて約500~800倍亢進しており、RNAseq解析の結果とほぼ一致した。特異的ペプチド抗体を用いたイムノブロット解析では、90kD付近に兵隊特異的バンドが認められた。RNAseq解析から得られた遺伝子配列を精査したところ、ササコナフキツノアブラムシには少なくとも4つのカルパイン遺伝子が存在し、兵隊特異的タイプを除く3遺伝子はどの個体でも同程度に発現する構成的発現タイプであることがわかった。近縁種のエゴノネコアシアブラムシのRNAseq解析をおこなったところ、カルパイン遺伝子はすべて構成的に発現していた。これらの結果から、ササコナフキツノアブラムシの兵隊特異的タイプは多重遺伝子族の中の1コピーから進化したこと、この分子進化イベントはササコナフキツノアブラムシでのみおこったことが明らかになった。現在、兵隊特異的カルパイン遺伝子の生物機能について手がかりを得るため、in situ ハイブリダイゼーションや免疫組織化学により発現組織を解析中である。
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