天敵昆虫による害虫抑制効果は重要な自然資源(=生態系サービス)の一つであり、化学合成農薬の代替手段の一つである。自然資源としての天敵昆虫を保全し、効率的に利活用するためには圃場周辺の土地利用に着目した移動実態の解明が必要である。本研究では、発生源・農地を含む広域スケールで天敵昆虫の発生数を調査し、土地利用情報とマイクロサテライトマーカーを用いた解析から農地への移出入実態を明らかにする。今年度はマイクロサテライトマーカーを用いてトラップに採集されたカメムシタマゴトビコバチ雌成虫の遺伝子型を調査し、トラップ間の距離と採集された個体の遺伝子型からトラップ間の遺伝子型の空間自己相関係数を求め、遺伝子型の変化に関わる距離の影響を評価した。フェロモントラップに捕獲された雌成虫(16地点 n=131)を対象に3遺伝子座を用いてSpatial Structure Analysis を行った結果、トラップ間の距離が500m以上では空間自己相関係数rは低く、カメムシタマゴトビコバチの移動分散距離は500m未満であると推定された。これは土地利用情報とカメムシタマゴトビコバチの誘殺数に影響する空間スケールを前年度検討した結果500m~1kmと一致する。また野外のカメムシ卵塊から羽化した雌成虫の遺伝子型解析から、卵回あたりの産卵雌数は平均6.4±0.8頭と推定された。母親間の血縁度は-0.09±0.02と有意に負であり、母親は血縁者を避けて産卵する傾向にあると考えられた。子供の遺伝子型から推定された近交係数(FIS)は0.15±0.07(p<0.05)であり近親交配する傾向にあると考えられた。このため、本種は近親交配を続けながら500m程度の範囲で移動を繰り返し、森林周辺の雑草地から農地へ移入していることが明らかになった。
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