水田を含む農耕地の耕作状況と農耕地を生息地とする生態系上位種である猛禽類2種の環境利用の関係性について考察した。 谷津田を含む里山で繁殖する猛禽類サシバについては、繁殖北限域において繁殖の可否に影響をおよぼす食物動物の発生動態とサシバの育雛期との関係について詳細な調査を実施した。その結果、サシバの繁殖に必要な食物資源にかかわる要因は、①育雛期間中に大型カエル類が十分に発生し、②育雛期間の前半に大型カエル類の発生ピークがあり、③5月下旬の育雛期間初期段階には既に大型カエル類が発生しており、④トカゲ類(ニホンカナヘビ)が生息しており、⑤7月下旬以降に昆虫(バッタ類)の発生量が増加することであり、以上の項目のうちいずれかひとつでも満たしていない場合、食物資源という観点において個体群レベルでのサシバの繁殖には不適であり、繁殖地として選択されない可能性が考えられた。 広大なヨシ原のある湿地で繁殖する猛禽類チュウヒについては、繁殖成績に影響する要因を把握するため、ヨシ原の湿地に作られた巣と乾地に作られた巣で繁殖成績を比較した。その結果、巣のビデオ監視では、チュウヒの雛がタヌキに捕食される実例が認められ、また、古巣を監視した実験では、半数以上の巣に捕食者となり得る獣類が出現した。したがって、捕食者による食害はチュウヒの繁殖成績に負の影響を与えていることが明らかとなった。しかし、湿地の巣は乾地の巣に比べて獣類の襲来リスクが低く、湿地の巣は乾地の巣に比べて繁殖成績が良好であることが示された。したがって、湿地草原を増やすことで、チュウヒの繁殖成績の向上が期待できる。獣類の襲来リスクの点では、ヨシの生育に負の影響の出ない範囲で、水深は深いほど良いと考えられる。 以上のことから、耕作された水田はサシバが、耕作放棄されヨシ原となった湿地ではチュウヒが重要な生息地となっていることが示された。
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