まず,国内の歴史的斜め堰153堰(69水系)を対象に,地図上で地形との関係を分析した。その結果90堰について,土木学の知見にもとづく堰と周辺地形との合理的な関係性,すなわち,山塊に接する河道の蛇行外側に取水点が位置すること,および,取水点で地形に即した河川取水の有様が眺望可能なことが明らかとなった。旭川水系に現存する891堰の現地踏査と地図分析では,116堰について同様のことが明らかとなった。堰と周辺地形との合理的な関係性が示された90堰(51水系)の取水点において,堰体,河道,山塊の眺望景観を調査した。その結果,地形に即した河川取水の有様を眺望できるのは,流軸景に限定すれば17堰だが,流軸景外や遮蔽部分の景観も考慮すれば67堰におよぶこと,および取水点の眺望性確保のための課題を明らかにした。 一方,歴史的斜め堰の用水受益地10ヶ所の景観について地図分析と現地調査を行った。幹線水路の川側で田が,山側で林地が優占していること,このような土地被覆の分布は,水路を境にした土地の高低に対応しており,水路の周辺において,地形に即した土地利用の有様が観察可能であることがわかった。一方,水路より川側に市街地の集積する事例があり,また,山側にゴルフ場の優占する事例もあり,都市化の進行や開発にともなう景観の変質が明らかとなった。 最終年度では,堰の織り成す景観の文化的価値を活かす方策を探るべく,水土里の路ウォーク等23ヶ所の設えについて現地調査を行った。その結果,水路の取水点から放流点まで,受益地全体を網羅するコース設定の必要性と,水路や土地利用と地形との対応関係について,来訪者がコース上での景観体験を通して理解し得るよう,適所で情報を提供する必要性,という整備課題が明らかとなった。
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