わずかな面積しか残されていない「自然性の高い照葉樹林(照葉自然林)」の復元を図る上で最も効率的かつ効果的な取り組みは、照葉自然林に偏在する多くの種を他の樹林(自然性の低い照葉樹林など)に導入(苗の移植や播種)し、その樹林の自然性および種多様性を積極的に向上させることである。しかし、このような取り組みの実行にあたっては様々な課題を解決する必要がある。最も重要な課題は、照葉自然林に偏在する種を具体的に明らかにすることである。本研究は、このような課題の解決を図り、照葉自然林の復元に向けた取り組みを前進させることを目的とした。主な研究実績は下記のとおりである。 小笠原諸島の父島・母島および口永良部島において照葉自然林と照葉二次林の調査を実施し、両者の種組成、種多様性の相違を明らかにした。また、兵庫県西宮市において照葉人工林(社叢として保全されている林齢数百年のクスノキ林)の調査を実施し、そのデータを照葉自然林の既存データと比較することで、両者の種組成、種多様性の相違を明らかにした。さらに、屋久島に分布する照葉自然林、照葉二次林、スギ人工林(管理が行われておらず照葉樹林化が進行している林分)の比較検討を行い、三者の種組成、種多様性の相違を明らかにした。また、宮崎市の平和台公園で各種の調査を行い、孤立化した照葉二次林の種組成、種多様性の特徴を把握したほか、絶滅危惧種に指定されているオオバヤドリギの生育状況やその寄生が樹木に与える影響などを明らかにした。さらに、日本植生誌や論文などの既存文献をもとに照葉自然林と照葉二次林の植生調査資料を整理し、そのデータベース化を進めた。
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