研究実績の概要 |
都市内で植栽されている早咲きのサクラ品種の多くは,カンヒザクラを片親とする雑種個体と推定されてきた。日本国内の早咲きのサクラ品種が,どの地域集団のカンヒザクラから作出されたのかを明らかするため,早咲きのサクラ14品種と,これらの原種候補として,カンヒザクラとオオシマザクラ,ヤマザクラの3種についてAFLP遺伝分析を行った。その結果,早咲きのサクラ品種は,カンヒザクラとオオシマザクラの雑種が5品種,カンヒザクラとヤマザクラの雑種が4品種,原種の変異個体が3品種であると推測され,2品種では複数の遺伝的組成を示した。中国,台湾,日本のカンヒザクラは遺伝的に異なっていた。また日本,台湾のそれぞれの早咲きのサクラ品種は,その大半が各国のカンヒザクラに由来することが示唆された。さらに早咲きのサクラ品種の原種候補種の1種であるヤマザクラが多く生育し,且つ都市化が進んでいる関東西部では,種間交雑も起きていると考えられた。そこで、ヤマザクラ,オオシマザクラ,エドヒガン,カンヒザクラについて,マイクロサテライト遺伝分析を行った。計694サンプル,6遺伝子座の遺伝子型を用いてSTRUCTURE解析を行った結果、4つのクラスター[A],[B],[C],[D]が認められた。[B]はオオシマザクラ,[C]はエドヒガン,[D]はカンヒザクラと対応していた。ヤマザクラは,[A]で特徴付けられるものの,[B]を様々な割合で含んでおり、関東の南部ほど[B]の割合が高くなった。関東西部の中央に位置する多摩丘陵では,[A]と[B]の混合個体が多数生育していた。これらの結果は,(1)エドヒガン,カンヒザクラ、両者から作出された園芸品種とヤマザクラとの種間交雑は生じていないこと,(2)オオシマザクラとヤマザクラの遺伝的差異は小さく,(3)ヤマザクラ地域集団はオオシマザクラの遺伝的クラスターを様々な割合で含んでいることを示唆していた。
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