研究課題
基盤研究(C)
本申請は、同じ個体において染色体数の違う細胞が混在する「混数性」について、染色体の分配異常が引き起こされる原因を分子レベルで明らかにするものである。我々が独自に明らかにしてきたタバコ植物の混数性現象について、遺伝子発現・DNAメチル化の統合的な解析を行って原因遺伝子候補を絞り込むとともに、染色体分配の動態を免疫染色などにより詳細に解析し、さらには原因遺伝子候補の発現を変化させた形質転換植物により機能を証明することを目的としている。本研究は「ダイナミックな染色体挙動」という基礎細胞遺伝学的に 重要な知見を与える他、応用的には植物育種学の分野で重要な「ソマクローナル変異の分子機構解明」の基盤を作ることかできる。本年度は、「遺伝子発現の確認」と「免疫染色による組織観察」の2点について、研究に着手した。「遺伝子発現の確認」については、既に行っていたマイクロアレイ分析の結果から、混数性タバコ個体において正常個体より遺伝子発現が増大している遺伝子を29種類と減少している遺伝子を17種類、候補遺伝子としてピックアップし、その中から転写因子を中心に遺伝子発現をReal-Time PCRにより確認した。調べた全てのReal-Time PCR結果は、マイクロアレイ分析結果と同じ遺伝子発現量変化を示し、ほとんどのものが5%レベルで有意差があった。また、「免疫染色による組織観察」に関しては、体細胞分裂の前期・中期・後期・終期・間期の各ステージにおいて、チューブリン抗体とセントロメア特異的ヒストンH3抗体を2色で蛍光検出し、紡錘糸と動原体の挙動を組織レベルで調べた。その結果、混数性個体では不均等な染色体分離を示唆する像が確認されたが、紡錘糸や動原体形成には異常は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度の研究実施計画にあった「遺伝子発現確認」と「免疫染色観察」の両者について、順調に研究が遂行され、一年目として重要な基盤的成果が得られたため。特に、研究目的にある「染色体分配の動態を免疫染色などにより詳細に解析する」点については、一年目で十分なデータが得られ、今後の進展にプラスの影響を与えると考えられる。
平成25年度にReal-Time PCRでの発現差異確認は行えたが、まだ遺伝子導入のための候補遺伝子を決定できておらず、これについては平成26年度以降に結論を出していく必要がある。従って、コンストラクトの作成については多少計画が先延ばしになり、平成26年度実施計画については、コンストラクト作成開始のみに変更され、遺伝子導入は平成27年度以降に予定される。Bisulfite sequencingについては、条件検討などの準備が順調に進んでおり、平成26年度には予定通り解析を開始できると思われる。一方、組織観察においては、既に根端分裂細胞における免疫染色について良好な成果が得られたので、平成26年度以降は、葉での混数性の状態を調べるために、プラスチック切片とプロイディアナライザー(学内設備)を駆使して明らかにしていきたいと考えている。
平成25年度に行った組織観察において、抗体や蛍光色素については、分与していただいたり、既存のものを使うことで研究成果が比較的スムーズに得られたため、その分の物品費の消耗が少なかったことと、コンストラクトの作成が開始できていないため、分子生物学試薬について少額使用となった。また、塩基配列決定の外部委託を行わなかったため、その他の使用が無くなった。平成26年度は、Bisulfite sequencingを本格的に行う他、コンストラクト作成にも着手する予定であり、前年度分額を含め、多くの分子生物学試薬を購入する費用として、物品費が使用されると考えられる。また、組織観察においては、葉の混数性の状態を調べることを新たに考えており、それに必要な消耗品の購入を予定している。塩基配列決定については、引き続き外部委託をするほうが効率的かを判断しながら助成金を使用していきたい。
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