研究課題/領域番号 |
25460011
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
谷口 剛史 金沢大学, 薬学系, 助教 (60444204)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヒドラジン / 鉄触媒 / 光延反応 / 酸素 / C-H官能基化 |
研究概要 |
空気で再酸化可能な新しい光延試薬を開発し、触媒的な光延反応の開発に成功した。開発した新たな光延試薬は2-アリールヒドラジンカルボキシラート誘導体であり、空気による再酸化反応によって触媒の再生が可能であることを明らかにした。この芳香環上の電子密度を調節することによって、現時点で3,4-ジクロロフェニルヒドラジン誘導体が最も活性の高い触媒であることがわかった。また、再酸化の触媒として安価かつ安全なフタロシアニン鉄が有効であることがわかり、本触媒系を用いて、種々のアルコール類や求核剤の組み合わせで触媒的な光延反応が進行することを明らかにした。 α-ハロヒドラゾン化合物からの酸化的なアルケニルラジカル発生の研究については、クロロアセトンから対応するプロペニルラジカルが発生し、5%程度ではあるが、2-フェニルプロペンとの付加反応が進行することが明らかとなった。また、本研究の過程でα-フルオロヒドラゾン化合物への新しい求核置換反応を見出すことができた。 ヒドラジン化合物と鉄触媒を用いた芳香族化合物の官能基化反応を検討したが、現時点ではフェニルヒドラジンと溶媒量のベンゼンとの間のビフェニル合成に留まっている。本研究に関連して、以前、鉄触媒の活性化剤として水素化ホウ素ナトリウムと酸素を用いた反応系において不活性なC(sp3)-H結合が直接官能基化される反応を見出している。この反応は本研究課題との関連性が高く、その反応挙動を明らかにすることで本課題の解決するための手がかりが得られるものと考え、本反応をさらに詳細に検討した。すわなち、基質の適用例を拡大することでその詳細な適用範囲を明らかにするとともに、反応機構を実験的に解析した。本反応ではラジカル機構が支持され、鉄触媒系における直接的官能基化反応には一電子移動機構を念頭に触媒系を確立することが有効であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、3つの反応様式を研究し明らかにすることを計画した。 そのうち、触媒的光延反応の開発はほぼ計画通りに研究が進行し、一つの合成手法としての概念を確立することができた。本反応においてのみ言えば、予想より大幅に研究が進行しており、現時点で本反応をさらに改良するための応用研究の計画するに至っている。 α-ハロヒドラゾン化合物からのアルケニルラジカルの発生法やヒドラジン化合物を用いた芳香族化合物の官能基反応に関しては、当初の仮説を支持するような予備的な結果を得ることはできたが、合成手法として完成するには至っていない。しかしながら、本研究の過程で予想外の結果に遭遇し、それをもとに別の研究へと展開することができた。この点について、本研究計画をもとに新しい化学を発見することができたことは、非常に意義があることである。この新たな研究については論文の発表も行っており、当初の研究計画がうまくいかなかった部分を補填してあまりある成果であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
触媒的な光延反応についてはその基本概念はほぼ確立されたので、より実用性の高い合成手法へとさらなる改良を行う。具体的には、触媒となるヒドラジン化合物のさらなる構造最適化とフタロシアニン鉄の配位子の改変を行うことによって、光延反応活性と触媒の再酸化の両方を促進させる触媒系を構築する。 α-ハロヒドラゾン化合物からのアルケニルラジカルの発生法については、高収率でラジカル受容体との反応を進行させることを目的に、より温和な酸化条件を種々検討する。特に、α-ハロヒドラゾン化合物からジアゼン中間体への効率的な変換が重要であると考えられるので、その過程を促進させるための添加剤(弱い塩基など)の検討を進める。 ヒドラジン化合物と鉄触媒を用いた官能基化反応については、当初の目的よりも触媒系や基質の範囲を広げることを計画する。具体的には触媒系は鉄触媒のみに限定せずあらゆる金属や酸化剤の検討を行う。また、芳香環へのカップリングだけでなくアルケンやアルキンを用いた多官能基化や連続的反応、または、本年度で新たに展開できたC(sp3)-H結合の官能基化など、さまざまな可能性を視野に入れて広く研究を展開することとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は原料の調製や触媒系の検討などが当初想定していたよりも効率的に進行し、比較的高価な試薬を購入する機会が予想より少なくて済んだことが最も大きな要因である。 もともと計上していた研究費の大部分を予定していた消耗品購入に充てることは、当初の計画から変更はない。また、成果発表のための旅費に関しても当初の計画から変更はない。これに加えて、前年度の成果を応用研究へと発展させるために、比較的特殊な材料や器具の購入に前年度からの繰り越し金の一部を充てることを計画している。具体的には、触媒の回収を容易にするために担持させる高分子材料や反応活性の評価を迅速に行うための分析カラム等の購入を検討する。 また、本年度の結果を受けて反応開発の範囲を広げる必要性が出てきたため、新たな触媒となる金属や配位子の試薬を購入することを計画する。これらは比較的高価なものが多いため、繰り越し金を活用することが必要となる。 また、本年度の研究で常用している一部の装置について、消耗品の老朽化が判明したため、次年度の研究費を用いてその消耗品の交換を行うことを考えている。
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