本申請研究は、反応系中で発生させる求電子的窒素種への転位反応を利用して含窒素複素環化合物の新規合成法の開発を目指すものである。求電子的窒素種としてアミンとハロゲン化剤の反応により容易に調製可能な「ハロアミン」の利用について検討している。これまでに、窒素のアルファ位に電子供与性置換基を有する基質において転位反応が効率的に進行することを見出しており、昨年度に置換ベンゼン環を有する基質を利用した縮環テトラヒドロイソキノリン合成法を確立するとともに、インドール基質において有望な結果を得つつあった。 本年度は、インドール基質の反応ついて精査した。シクロブタン環を有するインドール基質を合成し、酸化的転位反応について検討したところ、縮環テトラヒドロイソキノリン合成と同様のNCSを用いる条件で転位反応が進行し、縮環インドール化合物を与えることが分かった。インドール窒素の保護基としてはカルバメート基が最適であり、無保護の基質やトシル基で置換した基質を用いた場合には、目的物は得られなかった。無保護基質を用いる場合、電子供与能自体は高いと考えられるが、インドール環3位にハロゲンが導入される結果となった。また、これまでの知見と同様に環ひずみの小さいシクロヘキサン環等を有する基質では転位反応が進行しなかった。この課題については、超原子価ヨウ素試薬を用いると、転位反応が進行することを見出し、中員環から大員環化合物の合成にも適用できるという知見を得つつある。 本年度を含めて研究期間において申請者は、窒素原子、酸素原子、芳香族置換基といった電子供与性置換基を有するハロアミンの転位反応を系統的に調査し、その複素環合成への有用性を明らかにすることに成功した。また、反応系中で発生させる求電子的窒素種として、新たに超原子価ヨウ素試薬を利用すれば基質一般性を大きく拡大できる可能性も見出した。
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