我が国を含む先進国ではさほど問題とはならないものの、発展途上国において深刻な公衆衛生上の問題であり、製薬会社が研究対象としにくい「顧みられない病気(Neglected Disease)」の代表的なものに糸状虫感染症であるリンパ性フィラリア症がある。WHOはリンパ性フィラリアの制圧を公衆衛生における世界的な課題とし、その方策の一つとして、特にフィラリアの成虫に対する新たな効果的治療薬の開発を最優先事項として打ち出している。本研究において代表者は、リンパ性フィラリア症制圧に有機合成化学の立場から貢献すべく、最近、有望な抗線虫活性を有することが分かったチランダマイシン類天然物の全合成本研究課題の目的と定めた。本天然物は、生活活性のみならず、高度に官能基化された化学構造や連続する不斉中心を有することからも魅力的な合成標的と言える。本年度においては、チランダマイシンBの新たな合成ルート確立に向けて検討を行った。即ち、市販のmethyl (S)-3-hydroxy-2-methylpropanoate を出発原料として、Marshallらのキラルアレニル亜鉛種のアルデヒドへの付加によって連続不斉中心を構築した。続いて、アセチレン部をPd-PEIを用いてアルケンへと還元後、リチオフランの立体選択的付加などを通して不斉中心を構築し、Achmatowicz反応を経てビシクロ環を形成後、既知中間体に導いて形式合成を達成した。
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