研究課題/領域番号 |
25460024
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
松本 隆司 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (70212222)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 天然物合成 / 立体制御反応 |
研究概要 |
天然には,それ自身でも生物活性をもつ芳香族化合物の誘導体同士がさらにビアリール結合し,複数連なった構造をもつ化合物が数多く知られる。それらの中には重要な生物活性を示すものも多い。本研究は,そのような天然物に特徴的な,軸不斉と中心不斉の両方が混在する系を効率的に立体制御して構築する手法を開発するものである。 今年度,幾つかの新しい合成アプローチを検討した中で,特に,アキラルなビフェニル化合物を出発物質とし,まず,一方のベンゼン環の側鎖に不斉中心を導入し,次に,他方のベンゼン環上のジアステレオトピックな二つの官能基のうちの一方を選択的に架橋形成反応に参加させることにより軸不斉を誘起するアピローチについて,良好な結果を得た。 すなわち,一方のベンゼン環の側鎖として3-ヒドロキシブタン酸構造または3-メチルブタン酸構造をもち,他方のベンゼン環の2'位および6'位に水酸基をもつビフェニル化合物のラクトン化において,側鎖上の不斉中心の影響により二つの水酸基のうちの一方が選択的に反応し,生成物の軸不斉が高度に制御されることを見出した。反応は高収率で進行し,さらに,ラクトン化反応の条件を使い分けることにより,立体選択性を逆転させることも可能である。これにより,9員環ラクトンの架橋したビフェニルの,軸不斉と中心不斉の相対立体化学が異なる両異性体を,それぞれ立体選択的に合成することが可能となった。また,一方のベンゼン環の側鎖として,1位に不斉中心を含む3-プロペニル基をもち,他方のベンゼン環の2'位および6'位にアリル基をもつビフェニルの閉環メタセシス反応が,やはり高ジアステレオ選択的に進行することを見出し,炭素8員環の架橋した軸不斉ビフェニルを立体選択的に合成する手法として有効であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
天然には,それ自身でも生物活性をもつ芳香族化合物の誘導体同士がさらにビアリール結合し,複数連なった構造をもつ化合物が数多く知られる。それらの中には重要な生物活性を示すものも多い。本研究は,そのような天然物に特徴的な,軸不斉と中心不斉の両方が混在する系を効率的に立体制御して構築する手法を開発するものである。 申請書に提案した幾つかの新しい合成アプローチを検討した中で,本年度は特に,アキラルなビフェニル化合物を出発物質とし,まず,一方のベンゼン環の側鎖に不斉中心を導入し,次に,他方のベンゼン環上のジアステレオトピックな二つの官能基のうちの一方を選択的に架橋形成反応に参加させ(非対称化)軸不斉を誘起するアプローチについて良好な結果を得た。すなわち,(1)9員環ラクトン架橋鎖に不斉中心を含む軸不斉ビフェニルの立体選択的合成法,および,(2)炭素8員環架橋鎖に不斉中心を含む軸不斉ビフェニルの立体選択的合成法,の二つの有効な立体制御法を見出した。いずれの反応も,立体選択性に優れ,収率も高く,さらに,出発物質の合成も容易である。そのため,これまで合成の容易でなかった天然物の合成に,すぐに応用できる可能性をもち,今後の研究展開を有望なものにする結果である。
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今後の研究の推進方策 |
申請書に提案した残る二つのアプローチについても,最近の研究で良好な結果が得られつつある。すなわち,(1)軸不斉をもつビフェニル化合物を出発物質とし,側鎖部位にあるプロキラルな官能基に対し,軸不斉を足掛かりとするジアステレオ制御反応を施して中心不斉を誘起するアプローチ,および,(2)不斉反応剤を用いた架橋形成反応により,エナンチオトピックな二つの反応点のうちの一方を優先的に反応させ,軸不斉を誘起し,さらに,得られた架橋化合物の軸不斉を利用して,骨格上に不斉中心を構築するアプローチの二つである。これら二つにより詳細に検討を加え,新たな立体性制御法としてしての確立を図る。 また,「研究実績の概要」の項に記した,反応としては既に確立されつつある二つの方法については,それを利用した生物活性天然物の合成へと展開を図る。
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